今日は成田屋、市川團十郎さんの誕生日でした。一時は健康を害されましたが、今年で63歳と歌舞伎の世界ではまだまだこれからのお方。天才肌のお父上と息子に挟まれ何となく損をしている感がありますけれども、十二代目ならではの骨太な芸風に、ますます磨きをかけて欲しいものですね。
二十代後半の頃、職場の上司から歌舞伎座と国立劇場の無料招待券を何度も頂きました。当時はNHK衛星第二で貴重な映像が定期的に放送されていましたし、専門書を買い込んでは歌舞伎の世界に没頭したものです。成駒屋、六代目中村歌右衛門さんも存命中でしたっけ。武智鉄二さんの画期的な評論集にも大変刺激を受けたものでした。その頃お付き合いしていた女性のお母様が無類の歌舞伎通で、六代目の尾上菊五郎の生舞台を何度も観たという昔話にも興味を掻き立てられましたねえ。
世話物、時代物を問わず楽しみましたが、やはり歌舞伎の面白さを教えてくれたのは『助六所縁江戸櫻』『勧進帳』でした。特に助六は成田屋三代の映像を全て観ましたが、十一代目の江戸前の名啖呵、十二代目の重厚さ、そして当世海老蔵の水も滴る男伊達と、やっぱり歌舞伎十八番のお家芸だけあって、他の役者が霞んでしまう演目でしょう。当代の片岡仁左衛門の孝夫時代も素晴らしい二枚目振りでしたが。早く海老蔵には後継ぎを作って貰わなければ!成田屋の血を途絶えさせてはいけません。
十二代目の生舞台は、国立劇場で『逆櫓』を観ました。勿論樋口次郎兼光を演じてくれましたが、初登場の場面では明らかに鬼気迫るオーラを纏っており、戦慄を覚えたものです。もっとも権四郎役の中村又五郎がそれ以上に素晴らしく、未だに忘れられない舞台です。残念ながら高麗屋さんも今年二月に鬼籍に入ってしまいました。あの時の映像がNHKに残っているはずなので、何時か再放送してくれればと願っています。
成田屋さんに限らず、歌舞伎のDVD化は立ち遅れていますねえ。初代中村吉右衛門、大播磨の『熊谷陣屋』を何とかもう一度観たいものです。それではまた。