花音の奥さま生活日記

それはある日の夜のこと…

当時街中では“男の黒いロングコート”が流行っていた

その格好

私はどうも気に入らない…

ドレッドヘアーの弟の髪型も

「そんな髪型していいの？」

といいながら、結構私も気に入っていた（似合っていたんですよね…）

しかしこのロングコート

紳士が着れば格好良いと思うのですが

10代の若造が渋谷の街でこれを着て女の子に話しかけ、道端に座り込む姿は

どうみても汚い！

ましてドレッドヘアーの弟

後ろから見るとどうみても浮浪者のようでゴキブリのようで

私はこのロングコートに大反対だった

しかしあの日弟が私に見せたものは

「お姉ちゃん、今日俺これ買ったんだ！」

なんとあの汚らしいロングコート

ガーーン

ガーーーン

私のかわいい弟がこんなもの着て街をウロウロするのですか？？

許せない

許せない

断固反対！！

ということで

そのコートがいかに汚く見えるか

そのコートがいかに弟に似合わないものであるか

そのコートを着る弟を持つ姉がどれだけ恥ずかしい思いをするのか

私は懇々と説明を続け

一段楽して

テレビを見ようとソファーに座った

すると

後ろから

ゴツーーンっ

と何やら硬いもので

私の後頭部は打撃され

気づいたときには

震えながら泣いていた…

皆さんもお分かりのとおり

意気揚々と大変満足して買ったコートを

姉にボロクソになじられた弟の怒りが頂点に達し

私の後頭部を

グーで殴ったのである！！

信じられますか？

そりゃ、思春期の男の子の気持ちをボロボロにした姉も悪いけれど

私は仮にも女の子ですよ！

男が女に手を上げるとは何事ですか！！

言葉で勝負しなさいっ

と言うわけで

弟に殴られたショックと痛さで

涙と震えが止まらない私

そばにいた母親が駆け寄ってきて

「大丈夫？大丈夫？」と私の肩をさすったかと思いきや

「あなた！！出て行きなさいっ！！！」

「どういう理由であろうと人を殴るなんてもってのほか！！」

「今すぐ荷物をまとめて家を出て行きなさい！！」

とそれはそれはものすごい勢いで弟を怒鳴りつけた

しかし弟も反抗期なわけで

そう簡単に「ごめんなさい」の言葉が出るはずがない

「お姉ちゃんが悪いんじゃないか！！」

「俺は悪くない！！ふざけんな！」

「俺は出て行かないぞ！！」

と言い放ち、自分の部屋に戻った

母親の膝枕の上で震え続ける私

痛みよりもショックのほうが大きかったんだと思いますよ

ワーーーン

ワーーーン

泣き続けていると

父親が仕事から帰宅し、リビングに入ってきた

「何が起きたんだ？？？？？」

私をさすりながら説明する母

すると父親の怒りもすぐさま頂点に達し

弟の部屋に行くなり

「お前は何を考えてるんだ」

「頭が冷えるまで家に帰ってくるな！！」

と弟を引きずり出そうとした

ここで出た弟の発言に注目

「ここは俺の家だ！！」

「お前が出て行け！」

父親に対してですよ！信じられますか？？？

反抗期の男の子の発言、意味が分かりません

あの家は父が建てたものなのですから…

いつからお前のものになったんだ！！（財産分与もしてないぞ！姉ちゃんにも半分権利はあるはずだ）

と震えながらも

弟のこの発言には母と苦笑した（笑）

しばらく続く怒鳴り合い

この事件が我が家の今まで出一番の近所迷惑になったことは言うまでもありません（母はあわてて全ての窓を閉めはじめました…みっともない喧嘩を外にさらしたくないので）

普段温厚な父なので…ギャップが怖い

そして

「お前なんて息子じゃない」

と父は言い

リビングに戻り「大丈夫か？」と私に声をかけた

そして私の震えもようやく落ち着き始めた30分後

自分の部屋から出てきた弟は

号泣しながら

「お姉ちゃんごめんね」

「本当に本当に殴るつもりはなかったんだ…」

「でも体が先に出ちゃって…」

「お姉ちゃん本当にごめんね…許してくれる？」

「これからは何でも言うこと聞くからさ…」

とそれはそれは大泣きをして

彼が出来る最大限の誠意を私に見せてきた

ここまで言うなら許そうと（っていうか私も悪かったんですけどねーーー弟に最初に喧嘩を吹っかけたのは私なので…笑）

「もう大丈夫だから」

といい一件落着

タイトルどおりこの事件から私たちの兄弟愛は生まれる

今でも彼は電話をすると私に

「お姉ちゃん頑張りすぎてないか？」

「風邪を引いてないか？？体は大切にしないとだめだよ」

とまるで親のように言い

出かけると

「ここは俺が出すからいいよ」

と言って支払いも済ませてくれる（ちゃっかりお言葉に甘える私…笑）

そしてあの事件後、弟の生活態度は急変し

これはあまりにも高望みじゃないか？？？数年、浪人しても無理だろう…

と思われる大学にも現役で乗り切った

今では週6日、11時近くまで働くという過酷な生活にも文句を言わない弟

父も母も

「あの時＊＊＊ちゃんが殴られたのもムダじゃなかったわーーー」

「殴った相手が他所の子じゃなくて、お姉ちゃんでよかったわーー」

「逆に殴られてもらって本当に感謝している」

とあの事件を家族内で伝説化しつつある

殴られた本人にとっては微妙なのだが

ま、弟の更生に一役かったということで

良しとしましょう（私が喧嘩を売ったことについてはすっかり忘れている）

おわり