テーマ:海外生活(7774)
カテゴリ:カナダ
私からスーツケースを奪い取っていった男は、
それを黄色の車のトランクに乱暴に放り込み、私たちを手招きしていた。 「あー、やられた」 とナオコさんが苦笑いした。 「値段聞いてから乗ろうと思ったんだけど、先に荷物乗せられちゃったらしょうがないね」 まだ凍りついたままの私の背中を押しながらナオコさんは言った。 これがイエローキャブか…。 緊張が一気に高まり、私は気を引き締めた。 さっきまで「一人旅」を内心喜んでいたのに、 「出来れば、ナオコさんも一緒にホテルに泊まってくれませんか…」 という言葉が、もう喉元まで出かかっていた。 泣きそうになりながら、でも初めてのニューヨークを見逃すまい、と 必死で窓の外を見つめていると、どんどん風景が色を変えていく。 はじめはギラギラして安っぽい玩具のような赤や黄色だったのに、 だんだん落ち着いた琥珀色のような街並みになっていた。 「ホテルはアッパーイーストと言って、高級住宅街にあるから安心だって叔母が言ってたわ。 その分値段は高くなるけど、女の子一人で泊まるんだからその方が良いでしょ、って」 その通り!ありがとうございます、叔母様! イエローキャブは落ち着いた雰囲気の小さなホテルの前で泊まった。 お金を払うと、運転手はまた乱暴にトランクからスーツケースを取り出し、 少しニコッとしてすぐに走り去っていった。 HOTEL WALES 感じの良い男性が一人、フロントに立っていて私たちを迎えてくれた。 ロビーにいるのは殆どアメリカ人のビジネスマン。 みんな仕立ての良さそうなスーツに身を包んで格好良い。 私のようなカジュアルな服を着た旅行客は一人も居なかった。 チェックインを済ませて部屋に入る。 ナオコさんは「うん、まぁ、こんなもんかな」と言ってたけど、私はものすごく気に入った。 マンハッタンのアパートメントという感じで高級ホテルのような豪華さは無いが、 そのシンプルさがすごく良い。 ワクワクが、また戻ってきた。 ホテルの1ブロック南にあるコンビニのようなお店で明日の朝食を買い、 そのままホテルの前でナオコさんを見送った。 「じゃ、明日また迎えに来るね」 そう言ってナオコさんはバスに乗り込んでいった。 表情が、少しだけど明るくなったかな。 ガラス越しのナオコさんに手を振りながら、私は思った。 (続く) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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