カテゴリ:仕事
エレベーターが開くとすぐ前のドアは開け放たれ、
今日から私の仕事先となるそのオフィスが一目で見渡せた。 そこには、例のホスト社長と若い女の子、それと年齢不詳の女性が居て、 一斉に私の方を見た。 「あぁ!お早うございます!」 と社長は笑顔で挨拶しながら近付いてきて、何故か握手を求めてきた。 来ない…と思っていたのだろうか…。 若い女の子はマネージャー、年齢不祥の女性は英語は堪能だが車が運転できないので マネージャー及び私の補佐、という事だった。 ああ、やっぱり私の英語力のことなんてお見通しなんだ。だから通訳が必要なんだ。 いや、だけどブッカーって何!? 「3人共この業界は未経験なんで、1から頑張ってね!」と社長が言った。 社長以外、ものすごく不安げな表情をしている。考えていることは多分3人共同じ。 社長は得意げに「私とスカウトのJはこの業界長いから、何でも聞いてね」 と言いながら、どういうわけか英語のレッスンを始めた。 タイム誌か何かからのコピーを私達に配り、順番に読ませていった。 テスト…のつもりか何か知らないけど、今頃こんな事されても…と正直とても困惑した。 ほんの30分ばかりレッスンを続けて、唐突に「ハイ、今日はこれまで」と社長は立ち上がり、 今度はこれから来日するモデル達のことを紹介し始めた。 (ちなみに、この日以来レッスンは一度も行われなかった) もうすでに名刺代わりにクライアントに渡す各モデルのカードは出来ていて、 それを整理するように言われた私達3人は、ますます戸惑いを隠せないまま作業を始めた。 私は思い切って最大の疑問を社長に投げかけてみた。 「あのぉ~、社長、お聞きしたいんですが、ブッカーというのはどんなことをするんですか?」 「あ、ブッカーはね、モデル達のオーディションとか仕事の予定をすべて管理して、 モデル達を動かす人。それと、クライアントとのギャラの交渉もブッカーの仕事です」 「私には無理だと思います」 出来るわけないだろぉ~!そんなこと!と心の中で憤りながら私は言った。 「いや、ちゃんと教えていくから。最初は全部私がするし。 それを横で見て、覚えていってくれれば良いんだから安心して!」 「実際に、どんなお仕事をするんですか?クライアントってどんなところなんですか?」 「百貨店や商業施設の広告、アパレル企業のカタログ、通販カタログ、てとこかな。 ファッションショーとかCMなんて大阪にはほとんど無いね。 クライアントは○○さんがお仕事されてたような広告制作会社、 カメラマンの事務所ってとこかな」 社長のその話とモデル達の顔ぶれを見ていると、 夜の繁華街でいかがわしいクラブのショーに出演するようなモデルを 海外から連れてくる訳ではなさそうだった。 もう少し、様子を見てみよう。 モデル達が本当に来日するかどうかも分からないし。 今思えば、モデル達に会う前に逃げてしまったほうが良かったかもしれない、と思う。 この先私を待つ、過酷な現実を考えれば。 (続く) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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