カテゴリ:仕事
モデル事務所での仕事も2年目を過ぎた頃、
前まであまり顔を出さなかったスポンサーが事務所にやって来て、 ホスト社長とヒソヒソと話し込むことが多くなった。 ヒソヒソだが、2人とも険しい顔つきなので、楽しい話じゃないこと位は分かる。 いや、だいたいの想像はつくのだ。だって私はブッカー兼経理。 難しいところは全部会計事務所でやってもらうけれど、 帳簿つけから銀行口座の管理まで全部私がやっていたので、 この事務所がどれほど儲かっていないか、なんてすぐに分かる。 「このまま行くと支払い出来ませんよ」 なんてセリフ、今まで何度社長に告げたことか。 その度にスポンサーからお金が入金されるのだが、 そんなウマイ話がこの世の中にあるはずが無い。 で、スポンサーが「どないなっとんじゃ!」と怒鳴り込んでくるわけだ。 「そろそろヤバイかもなぁ~」 半年前にはもうそう思っていた。 その理由がもう一つあった。 もしかしたらそういう間柄?とまで疑ったほどの Jと社長の仲が険悪になっていたからだ。 Jは「社長に騙された」といつも陰で文句を言っていたし、 社長は社長で「Jはもっと良いモデルを呼べると思っていたのに」と怒っていた。 2人とも子供みたいだ。 でも、Jが契約を結んだモデル達は次から次へと来日し、 私達は相変わらず多忙な日々を送らざるをえなかった。 いつ潰れてもおかしくない事務所に、希望を持ってモデル達がやって来る。 でも、社長もJも、スポンサーもみんな誰かに責任をなすりつけてばかり。 モデル達への責任は誰が持つの?ちゃんとギャラは払えるの? 以前のように、しんどいけどやりがいがある、とはもう思えない私がいた。 そんな時、私達スタッフの知らないところでもう一つの事件が起こっていた。 カヨちゃんがJとデキていたが、Jが遊びだったことが判明し、 怒り狂ったカヨちゃんは、Jの悪口や、今までJがモデル達についていた嘘、 そのうえ事務所がヤバイことまで洗いざらいモデル達にぶちまけ、 突然辞めてしまったのだ。 カヨちゃんがかなりJに言い寄っていたのは知っていたが、 まさか本当にそんな関係になっていたとは知らなかった。ショックだった。 モデル達と私達スタッフとの間の信頼関係は失われ、 アメリカのエージェンシーから抗議の電話がかかってきたり、 すぐに帰国する、と言いだす子もいた。 Jと社長が必死でモデル達を説得し、なんとか思い止まらせることが出来たが、 その日マンションに帰った私は、もう心身共に疲れ果てていた。 疲れは寝ても取れず、蓄積され、 今までどんなに頑張っても決してダイエットに成功できなかったのに、 気が付いたら痩せていた。そして、生理が止まった。 いつもきっちりと28日周期でくるので、体の変調はすぐに分かる。 そのまま2週間待っても無かったので、私は病院に行った。 血液検査の結果を聞くために診察室に入った私に、先生はこう言った。 「血中のプロラクチンがとても高いんですよ。乳汁が出たりしませんか?」 あ、そういえば。 ブラジャーの先が少し濡れていることがあったっけ。 「脳の下垂体に腫瘍ができている場合もありますから、 大きな病院でMRの検査を受けて下さい」 それって、脳腫瘍ってこと…? 目の前が真っ暗になった。 (続く) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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