カテゴリ:仕事
父の紹介で、大学病院のMR検査をすぐに受けることが出来た私は、
検査の結果を聞くために、内科の外来待合室にいた。 「腫瘍なんてないよ、頭痛も全然無かったし」 多分大丈夫、と勝手に思っていた。 だから、診察室に入って、先生の口から 「プロラクチン産生腫瘍です」 と聞いても、しばらくは信じられなかった。 「それって…治るんですか?」 「悪性じゃないですからね。切れば大丈夫。1センチ弱だから、そんなに大きくないし」 「切るって、手術ってことですよね」 「そうです。口の中から後ろに切っていく手術ですから、頭蓋骨は触りませんよ」 だから安心して、という口振りだったが、私はもう卒倒しそうだった。 冷や汗をかきながら、 「手術以外に治す方法はないんですか?」と聞いてみた。 すると、先生は何か気付いたように話し始めた。 「御結婚まだですよね。将来お子さんは希望されますか?」 「え、どうしてですか?」 「腫瘍があると、当然妊娠はしません。ですが、手術で脳下垂体を触ると そのせいで不妊になる可能性もあるんです。ですから、お子さんを最優先に考えるなら、 時間はかかりますが、お薬での治療が一番良いでしょう」 「そのお薬は必ず効くんですか?」 「その人によります。それと、副作用がきついので合わない方もいらっしゃいます」 薬を手に、私はトボトボと駅までの道を歩いていた。 子供の事なんて、真剣に考えたこともなかった。 いつかは結婚して子供ができたりするんだろうな、と 誰でもが思うように、私もそう思っていた。 でも、私はそんな当たり前の事が、当然だと思っていたことが出来ないかもしれない。 突然自分の目の前に出来てしまった大きな壁の、 一体どこに扉が付いているのか、背伸びして遠くを見ても見つからない。 帰宅して、しばらく何も考えられずにボーッとしていたら 連絡を待っていたらしい母から電話があった。 病名を告げると、母は絶句していた。 お医者様から教わったことをそのまま話すと、母は、 「今すぐ仕事辞めて、マンション引き払って帰ってきなさい」 「うん、まぁ、そういう方向で」 「方向なんて言ってる場合!?明日辞めてきなさい! その仕事のせいでそんな腫瘍ができたんやから!」 決めつける母を何とかなだめて電話を切った。 晩ごはんを無理やり食べて、こわごわ薬を飲む。 副作用がきつい、というのを意識しすぎだったのか、私はすぐに気分が悪くなった。 吐き気とふらつき。ベッドに倒れ込んだ。 朝晩この薬を飲まないといけない。 晩は寝ればいいけど、朝この薬飲んで、果たして出勤出来るのか…。 吐き気と闘いながら、私はもう仕事の事を考えていた。 明日仕事のモデルに朝電話して、新しく来日するモデルのために 部屋をクリーニングしなきゃ。 この仕事が好きだ。 でも、事務所は閉鎖寸前。 私の身体もボロボロ。 どうしたら良いんだろう…。 涙が出てきて止まらなかった。 (続く) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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