カテゴリ:仕事
良いも悪いも一切聞かずに、私は勝手に退職の日を決めた。
早く代わりの人を見つけて欲しい、と思っていたが、 一向に求人広告を出そうとしないホスト社長。 「どなたか心当たりでもあるんですか?」 と聞いても、「そんなもの無いよ」と膨れっ面。 もうヤケクソか。 ヤケクソにもなるだろう。 ほとんど毎日スポンサーがやって来て、 訴えてやる、だの、逃げるなよ、だのと言われ続けているんだから。 でも、そんなの私には関係無い事だ。 今いるモデル達の仕事がスムーズに行くように今まで通り動くだけ。 最後の日まで。 副作用に苦しみながら飲んでいる薬は、 運良く私の腫瘍には効いてくれているらしく、 直径1センチ近くあった腫瘍が、7ミリにまで小さくなっていた。 病気の事を、付き合ってる彼に話すと、 「子供の事はええやん。それよりも病気はよ治さな」 子供ができないかも、と私は別れも覚悟して深刻に話したのに、 「挨拶に行かなあかんな、親に」 と彼は簡単に言った。 「いや、なんか結婚迫って子供出来た、って言うてるみたいやけど、その反対やで」 焦って私がそう言うと、 「子供欲しくて結婚するんちゃうやん」 と彼が笑った。 急にカナダに行き、帰ってきたと思ったら怪しい会社で働きだし、 仕事に夢中でなかなか逢えなくて、 揚げ句の果てに子供が出来ないかもしれないと言う私を、 ずっと見守ってくれてた人。 彼の言葉とは逆に、この時私は初めて 「子供が欲しい」 と思ったのだった。 結局モデル達と過ごしたのはたった3年間。 その間、クライアントから何度怒鳴られただろう。 その度に先方まで駆けつけ、膝に頭がつくんじゃないかというくらいに頭を下げた。 仕事が来ないのはあんたのせいだ、とモデル達に囲まれたことも 数えきれないくらいある。 資金繰りの心配もし、支払いから集金、帳簿付け、給与計算…。 今までの経験をすべて出した3年間だった。 結局、病気によってこの仕事を失うことになってしまったけど、 この事務所での、沢山の宝物のような出会いを決して忘れない。 これからは、私の新しい家族のために、しっかり病気と向き合おう。 そして、彼と私の子供を産もう。 その後、幸運にも子供を授かり、母親業を10年やらせてもらっているが、 こんなにしんどくて、悲しくて、心配して…でもその何倍も 感動して、嬉しくて、面白くて、泣ける仕事は他には無いとつくづく思う。 「やりがい」なんて必要無い、私のライフワークだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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