テーマ:海外生活(7774)
カテゴリ:カナダ
私がカナダでお世話になった、ホストファミリーのリーチ家には男性はいない。
リーチ家は母ローズマリーと娘二人の母子家庭だった。 ローズマリーの上の娘サラは 勉強もよく出来るいわゆる優等生タイプ。 その上、美人で背も高く、プロポーションも抜群だ。 面倒見がよく、誰からも好かれていた。 下の娘トレーシー。 彼女は学校の勉強はあまり好きじゃない。 私がいた頃はカメラマンになりたい、と言って、写真の学校に通っていた。 好き嫌いがハッキリしていて、感情の起伏が激しく、 いつも些細なことでローズマリーと衝突していた。 姉同様、綺麗な顔立ちをしているのだが、 服装にもヘアスタイルにも全く気を使わないので、 いつも少年のような印象だった。 私と同い年という事もあって、サラは本当に親切で、色々と気を遣ってくれた。 でも、どうしてか私は、最初から無愛想なトレーシーの方に好感を持っていた。 イギリスから大人になって移住してきたローズマリーのクィーンズイングリッシュを そのまま受け継いだサラの発音は本当に綺麗で聞き取りやすかったが、 トレーシーのカナダ訛りの英語が私は好きだった。 どうしてそんなにトレーシーに好感を持ったのか。 出来すぎた姉にコンプレックスを持ち、母も姉の方ばかり頼りにする状況に イライラしている彼女に、共感したのかもしれない。 サラは自分の弱みを外に出さないタイプなので、 彼女は彼女なりに沢山の悩みを持っていただろうけれど、 それを私なんかに見せることはない。 でも、トレーシーは私の前でも平気でローズマリーに大声で怒鳴ったり泣いたりする。 そんな時、サラは「こんな所見られたくない」という顔をした。 妹のことが恥ずかしい、と顔に書いてある。 私は家族の問題に足を突っ込む気なんて毛頭無いので、 いつも知らん顔をしているが、 そんな母娘のいさかいが何度あっても、 私はトレーシーを避けることもせず、 むしろ積極的に話し掛けたり、宿題を見てもらったりしていた。 リーチ家の三人には、それぞれ可愛がっている猫がいて、 ローズマリーの猫がジェフリー、サラのがタイ、そしてトレーシーのがラビット。 ラビットはものすごく警戒心の強い猫で、トレーシー以外には近付かない。 私は毎日学校から帰ると、 ラビットの定位置である窓枠から数メートル離れたソファに座り、 ただじーっとラビットを見つめながら、 ストレス解消も兼ねて、日本語で色々と話し掛けていた。 二ヶ月ほどそんな馬鹿げたことを続けていたある日、 「ラビットぉ~、今日やばかってん。自由発表で単語でてけーへんかって汗かいたわぁ~」 なんて言っていると、ラビットがいつもの細ーい目で私を見た後、 のそっと起き上がり、窓枠から床に飛び降り、 そして、私の足元まで来たかと思うと、トン!と膝の上に飛び乗ってきた。 そのまま、また居眠りを始めるラビット。 と、そこへトレーシーが。 「Hi!」と通り過ぎようとした彼女の足が止まった。 ゆっくりと振り向いた彼女の顔が、だんだんと驚きの表情に変わってゆく。 「Oh My GOD!!」 トレーシーは本当にビックリして、走り寄ってきた。 「抱っこしたら引っ掻かれるのに、どうやって!?」と聞く。 「ラビットから来てくれたよ」と私が言うと、しばらくしてから、 「ラビットは、Mayoの事が好きになったようね」 と言ってくれた。 トレーシーの顔のそばかすがハッキリと見えるくらい顔を近付けて、 私達は笑いあった。 短い間だったけど、少しは心通じ合えた…かな? 私、あなたの真っ直ぐで飾らないところが大好き。 今でもそのままでいてくれていると信じてる。 きっと、また会おうね。 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ そうそう。 ローズマリーに無視されながらも行ったPrinceのコンサート(3/4)の後、 トレーシーだけはこっそり「Prince、どうだった?」と聞いてくれたっけ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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