恵子の高校生活もあと3日。
夕方電話があった。友達は、自分の担当の先生とご飯を食べに行っている子が多く、自分は一人さびしく部屋で片付けや荷造りをしているといった。恵子の担当の先生はご飯を誘ってくれるような人ではないから、友達がうらやましいと言っていた。それなら、義姉からの宿題「ドイツの大学のランキング調べ」をしたら? と助言したら、そんなこと今したくない、と言った。恵子は、7月は中国に行くが、8月は入学試験以外はすることがないので、アルバイトをしたいらしく、探している。先週ある人材派遣会社の募集に応募したのだが、18歳未満は不可と断りのメールが来たそうだ。ほとんどのアルバイトは18歳以上で、16歳の恵子が応募できるようなところがない。
昨日は、卒業生企画のアビなんとか・・というイベントがあったらしいが、ものすごくつまらなかった、と言っていた。普通は、もっと面白くなるはずなのに、実行委員は名ばかりでなにもせず、なんで自分はこの場にいるんだろうと思った、残念だった、と言っていた。AbiZeitungという卒業生による卒業生のための校内新聞がある。たぶんどこの学校でも発行されるもので、卒業生にアンケートをとり、「私たちの中で誰が一番XXXか?」というアンケート調査がのっていたりする。たとえば、誰が一番早く結婚しそうか?とか、ノーベル賞をとりそうか?とか、そんな質問。恵子は、「誰が一番先生に好かれていた生徒か?」「誰が一番、勉強しないでもいい成績がとれる生徒か?」という項目で堂々の一位だったそうだ。本人は、努力していい成績をとっているのに、他人には、軽々とっているようにみえるようで、それが不満のようだった。
「数学の先生へのプレゼントを私が代表して用意したのだけど、そのお金をみんなから集金しないといけないし、今まで一緒に学校に電車で行っていた子から、私が立て替えた切符代を払ってもらわないといけないし、お金の取り立てばっかりしないといけなくて、なんかいやだなー」と言っていた。卒業したら会う機会もそんなにないだろうし、町で偶然会うことなんて皆無。在校生は明日帰ってしまうから、かなりたまった切符代を支払ってもらうのは難しいのではないかと思う。ほかの子達は恵子よりひとつあとの駅から乗ってくるので、いつも恵子が代表して切符を買っていた。なんでその都度お金をもらわなかったのか?と聞いたら、いつも「今、細かいのがない」といわれて払ってもらえなかったらしい。
もうすぐ卒業式というのに、恵子の口からは、愚痴ばかりがこぼれた。もっと楽しい思い出を作りたかったのに、残念だと思っているようだ。私が恵子の話を聞く限りにおいては、恵子の学校の生徒は知能指数が高く、とてもみんな頭がいいが、その知性を自分の利益のためにしか使わない子が多い、と感じた。もちろん、大して頭の良くない賢浩だってニコちゃんだってすごくわがままで自己チュー。自己中心であるかないかは知能とは関係ないかもしれないが、高知能児の自己中心的性格というのは、とても狡猾で、より嫌悪感を感じさせる。相手に手を差し伸べる余裕があるはずなのに、わざとしないようにみえるからだ。
恵子にとって、LGHに編入したのは、知的レベルを満足させるのにはベストな選択だったと思う。ただ、楽しい高校生活というなら、もしかして、地元のギムナジウムに通っていたほうがいい思い出がたくさんできたかもしれないと思った。
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