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江利はいつも午前五時には目覚める。
夢もみず熟睡するので、目覚めの気分はとても良い。子どもの頃からずっとそうだ。高校生 の時、級友に一度も夢をみたことがないと言ったら、驚かれてしまったことがある。 庭師をしている平中良と結婚して、良の横で眠るようになってから、ますます眠りが深く なったような気がする、と江利は思う。 起きたらすぐに朝食の用意にかかる。そして、同時に今日一日の食事の献立を考え、できる 下ごしらえを手早くする。 毎朝のこの時間が、江利にとって幸せなひと時の一つだ。 近所からもらったもぎたてのトマト、茄子、かぼちゃなどがある。江利の頭の中に、様々な 献立が浮かぶ。 江利は子どもの頃から、料理が得意だった。 幼くして両親を亡くした江利は、叔父夫婦に育てられた。叔父夫婦は自営業だったので毎日 忙しくしていた。江利はそんな叔父夫婦のために家事をがんばり、そのことで叔父夫婦に喜ば れることが何よりも嬉しかった。 テレビなどで料理研究家という人たちを見ると、その仕事に憧れた。 高校を卒業して食品関係の会社に就職したが、良と結婚して良の仕事を手伝うために、退職 した。 江利はそのことを良に告げた時のことをよく思い出す。 良は江利をまっすぐ見つめ、自分の夢を諦めることはない、江利が料理の勉強を本格的に したかったら、したらよい。お金は俺が何とかする、と言った。 あの頃、二人とも本当に貧しかった。良は庭師として働き始めた時だった。 江利はその時思ったのだ。自分が料理の勉強をしたいと言えば、良はどんなことをしてでも 応援してくれるだろうと。 あの日からもう十年たったのだ。 よくがんばったよね、と江利は自分を誉め、そして一人でくすくすと笑う。 その時、おはよう、と声がして、良が起きてくる。 五時半だ、と江利は思う。 良は毎日五時半に目覚めるのだった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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