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片桐早希 おむすびころりん

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2009.08.02
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 江利はいつも午前五時には目覚める。

 夢もみず熟睡するので、目覚めの気分はとても良い。子どもの頃からずっとそうだ。高校生

の時、級友に一度も夢をみたことがないと言ったら、驚かれてしまったことがある。

 庭師をしている平中良と結婚して、良の横で眠るようになってから、ますます眠りが深く

なったような気がする、と江利は思う。


 起きたらすぐに朝食の用意にかかる。そして、同時に今日一日の食事の献立を考え、できる

下ごしらえを手早くする。

 毎朝のこの時間が、江利にとって幸せなひと時の一つだ。

 近所からもらったもぎたてのトマト、茄子、かぼちゃなどがある。江利の頭の中に、様々な

献立が浮かぶ。


 江利は子どもの頃から、料理が得意だった。

 幼くして両親を亡くした江利は、叔父夫婦に育てられた。叔父夫婦は自営業だったので毎日

忙しくしていた。江利はそんな叔父夫婦のために家事をがんばり、そのことで叔父夫婦に喜ば

れることが何よりも嬉しかった。



 テレビなどで料理研究家という人たちを見ると、その仕事に憧れた。

 高校を卒業して食品関係の会社に就職したが、良と結婚して良の仕事を手伝うために、退職

した。

 江利はそのことを良に告げた時のことをよく思い出す。


 良は江利をまっすぐ見つめ、自分の夢を諦めることはない、江利が料理の勉強を本格的に

したかったら、したらよい。お金は俺が何とかする、と言った。

 あの頃、二人とも本当に貧しかった。良は庭師として働き始めた時だった。

 江利はその時思ったのだ。自分が料理の勉強をしたいと言えば、良はどんなことをしてでも

応援してくれるだろうと。


 あの日からもう十年たったのだ。


 よくがんばったよね、と江利は自分を誉め、そして一人でくすくすと笑う。

 その時、おはよう、と声がして、良が起きてくる。

 五時半だ、と江利は思う。


 良は毎日五時半に目覚めるのだった。





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Last updated  2009.08.02 20:12:16
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