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紀子の家の勝手口は、開けっ放しになっていた。
良の伝言を紀子に電話で伝えることもできたのだが、江利は久しぶりに紀子に会いたくなり やってきたのだった。紀子は平日は仕事をしているので、土曜日を選んだ。 江利は家の中をそっとのぞき、こんにちは、と声をかけた。すると、台所の奥でうずくまっ ている人影がゆっくり立ち上がった。 「まあ、江利さんじゃない・・・・。いらっしゃい。」 江利に向けられた笑顔はいつもの紀子だが、服装が違う。エプロン姿の紀子を、江利は初め て見た。それにどうやら紀子は台所の掃除をしていたようだ。掃除をしている紀子を見るのも 初めてのことだった。紀子は自他共に認める家事嫌いなのだ。 三年前の六月、江利は良と一緒にこの高階家に仕事にやってきた。 最初、江利は紀子のことをとっつきにくい人かな、と思ったのだが、すぐにそうではない と思い、親しく話すようになった。 紀子は仕事をしている良を見て、凛々しい姿だねえ・・・・、としみじみとつぶやいた。 その言葉は江利の心の一番奥にそっと入り、それからずっと大切にしまわれているのだっ た。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009.08.05 19:02:16
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