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紀子は小中高生の学習教材の販売や学習塾を開いている会社に、長い間勤務している。
小学生のための学習塾の講師の仕事が主で、子どもたちに勉強を教える楽しさを江利に よく話した。そういう時の紀子は生き生きとして、聞いている江利まで明るい気持ちになった ものだ。 その紀子が、仕事の話になったとたん意気消沈しているように見える。 江利は言葉を失い、そのまま黙って座っていた。 紀子はしばらくして、大きなため息を一つつくと、言葉を選びながら最近のことを話し始め た。 「長い間一緒に働いていた人が、仕事を辞めたの。二人同時にね・・・・。一人はだんなさん が実家を継ぐために引っ越さなくてはならなくなったため。もう一人は親の介護のため。しょ うがないよね、私たちはそういう年になってしまったんだから。」 紀子はそこまで言うと、立ち上がり紅茶を煎れ、空色のカップを江利の前に置いた。 「淋しい気持ちはあったけれど、それはそれで避けられないことなんだから、それぞれの道で がんばろうって言い合ったんだけれど・・・・・、彼女たちがいない職場は何だか調子が違う のよね。今までなら、スムーズにできていたことができなかったり、話がこんがらがった り・・・・、会話がかみ合わなかったり、常識を疑いたくなる行動がやけに目についた り・・・・。何だかそんなことばっかり続いて、急に仕事の意欲がなくなっちゃたのよね。」 肩を落としてぼそぼそ話す紀子に、江利は驚く。 「こんなこと考えるなんてね・・・・・・。」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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