裁判の被害者側の証人の証言に食い違い
片方の証人(A氏)は、腰を深く曲げて最敬礼している被害者の姿を見ていたので、被告が振り下ろした鞄が被害者に当たったところは見えなかったと証言していますが、もう一人の証人(B氏)は、扉のガラスから入ってくる光が逆光になって、鞄が振り下ろされたところは見えなかったと証言しています。つまり、お二人とも被告が鞄を振り上げたところは見ているが、それを振り下ろしたところは見えなかったということなのですが、鞄が被害者のカラダに当たった音は聞こえたということはお二人とも証言しています。
A氏は「一瞬の出来事」(「 」内は傍聴メモからの引用)だったからよく見えなかったと繰り返し証言し、被告の鞄を持った手が見えたのは、殴打が終わった後だったと証言しています。しかし、ここに実に不思議なことがあります。多くの方々は、プロのボクシングの試合をご覧になったことがおありかと思いますが、ボクサーがパンチを打ち出した時に、それが速すぎて見えなかったということがおありでしょうか。あのパンチの破壊力は、ボクサーの体重と拳の移動速度によって決まります。ボクサーの体重はほぼ一定ですが、拳の移動速度はその時々によって異なりますが、通常、私たちはあの移動速度で移動している物体を認識することが出来ます。
高速道路のすぐ近くで時速100kmを超えて走っている車でも見失うことはありません。時速100kmは、秒速約28mです。25メートルプールのスタート台とプールの向こう側までの距離よりも少し長い距離を約1秒で進むものなのですが、「一瞬の出来事」であっても、鞄をその速度で振り下ろすことは、かなり難しいだろうと思います。「目にも留まらぬ速さ」という表現がありますが、多くの方々はこの速度で移動する物体を視認することが出来ます。
また、B氏の証言では、逆光で見えにくかったということなのだが、このことに関しては、何人かの方が書かれているので省略することにしますが、逆光だと、それを背にしている人物を認識しやすくなるケースがあるので、映画などの撮影の時に、わざとその位置で撮影することがあるようです。カメラの絞りを少し絞れば、それが可能です。そして、人間の目の構造は、ほぼカメラと同じです。水晶体がレンズで、瞳孔が絞りで、網膜がフィルムやCCDに当たるのは皆さんもご存じであろうと思います。ですから、逆光を受けている時には、基本的には瞳孔が狭くなっていますから、そこにいる人物の行動が見えなくなるということは極めて稀なことではないかと思います。