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車筆太

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2006年08月24日
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 『トリック』の上田次郎教授からコミカルな要素を取り除き180度反転させたというより、『孔雀王 アシュラ伝説』の孔雀と言ったほうがいいかもしれない(演技力は格段に上がっているけれど)。
 短髪メガネの稗田礼二郎はなんだか普通の大学教授風だが、神経質なギョロっとした目は雰囲気が出ていて、悪くない。
 そのうち、「阿部ちゃんに似ている」がネタになるかも。

 以下、ネタバレあり。
 
 さて、原作は『週刊ジャンプ 増刊』に『妖怪ハンター』として掲載されたシリーズ中の一編『生命の木』。
 学研の『ムー』を定期購読していた少年としては、隠れキリシタン信仰を背景とした「オカルト」色の強い物語にシビれたものだ。
 ただ、キリスト来日伝説(戸来村のキリストの墓とか)や聖書の謎解き(公開時のアオリが「日本版ダヴィンチ・コード」って)といった道具立ては表面的なもので、「肉」のみを与えられた「あちら側」に救いは訪れるのかというのが主題である。
 
 グノーシス主義的な内容もさることながら、「白痴の部落」が避けられない主題になっているので、「不穏」とされそうではあるが・・・。
 さらに、「無知」であることが、「無垢」であることにつながり、平和で穏当な理想郷を創造するのではなく、永遠に生き続けることために一旦「いんへるの」に落ち、そこから救われる(と期待する)ことで信仰が成立するという一筋縄ではいかない設定になっている。
 その意味では、「いんへるの」にすら入ることの許されない重太の悲劇性が引き立っていると言える。
 「じゅすへるの一族はみんな天国(ぱらいそ)へいけたのだろうか」というエンディングも重い。
 
 原作の話はやり始めるとキリがないのでこの辺にして、その傑作がいつの間にやら映画化。
 レンタルで見かけるまで知りませんでしたよ。
 それ故か、低予算の感は否めない。
 CG云々と言われそうだが、そんなに悪くはない。「ぜず様」も含めて違和感はない。
 
 むしろ、美術の方に違和感はある。
 オープニング、主人公(藤澤恵麻)が住む部屋が映し出されるが、小汚い台所なんかは味がある。山道を走る車もいい。
 バブルへの道を用意した高度経済成長の尻尾、70年代初頭の田舎を再現することは、リアリティだけでなく、物語の構成上(過疎により死んでゆく部落など)も正解。
 しかし、折角、隠れキリシタン弾圧の歴史を持つ、「東北の島原」岩手県藤沢町大籠をロケ地として、大籠カトリック教会を用いながら、一転、教会内部は安いセットで済ませるギャップ。
 同じことは、見せ場の洞窟のシーンでも言える(ここはCGIをデジタルSFXで合成しているのだが、それがショボイ)。
 因みに、原作の教会も大籠カトリック教会にソックリ。

 演出面でも気になるところが。
 諸星先生自身、何かのあとがきで「ホラーを意識して描いてはいない云々」と書いていたが、この『妖怪ハンター』シリーズも『稗田礼二郎のフィールドワークより』としたほうがピッタリとくる。
 その点、(定番の2文字タイトルに引っ張られたのか)昨今の「Jホラー」を意識したような演出は不要である。
 そんなことをしなくても、十分、雰囲気は出てますから。
 
 ただし、これは原作がわずか30p前後の短編であるため、どうしても映画化にあたって水増しせざるを得ず、そのため「神隠し」を加えたことの延長線上にあるとも言える。
 「神隠し」はこの世界観の中ではよく起こる現象で違和感はないものの、その処理がヘタ。
 というより、ほとんど不要なエピソードであるのがイタイ。
 結末は結構コケる。
 「神隠し」関係の因縁を語るのが講談師・一龍斎貞水というのは、明らかに浮いているものの、嫌いじゃないですけれど・・・。

 事実上のエンディングを迎えた後に、ダラダラと続けるのも、カタルシスの充足やインパクトを薄め、興を削ぐだけだ。藤澤の朴訥としたナレーションも微妙なところ(演技とは別の話)。
 重太によりスポットを当てた作りは悪くはない。
 しかし、「藪の中」を言うのに、「じゅすへるが神に望まれた存在」云々は余計。両天秤にかけて、どちらが良いとするのでは、二元論的で底が浅い。
 
 会話で説明する場面が多すぎると感じるかもしれないが、元々、情報量が多いので、作品として成立させるギリギリの選択ともいえる。
 実のところ、これだけの情報量(「世界開始の科の御伝え」など)を映画としてどう処理するかがうまく機能していないのかもしれない。
 だが、登場人物が少ないゆえに、交通整理をうまくしつつ、情報を転がす手法が使えないというのもあるだろう。
 
 さて、ご存知のように、稗田礼二郎の映画化には先行作品がある。
 塚本晋也初のメジャー作品『ヒルコ 妖怪ハンター』だ。
 『鉄男』のゴリゴリとした感じはなく、爽やかな青春譚となっていて、これはこれで好感が持てる。
 
 原作は『海竜祭の夜』収録の「海竜祭の夜」「黒い探究者」「赤い唇」「花咲爺論序説」からその要素を抜き出しアレンジを加えたもの。
 話の中心はヒルコを扱った「黒い探究者」と淡い恋物語の「赤い唇」で、それに「海竜祭の夜」「花咲爺論序説」を加えてある。
 
 なので、原作『海竜祭の夜』のクレジットは書名と思っていい。
 因みに、この作品集、「生命の木」「ヒトニグサ」「幻の木」「肉色の誕生」などと名編揃い。
 
 ジュリー@沢田研二が、『ゴーストバスターズ』並のヘンテコ装置を抱えて、右往左往。
 奇声を発しながら、キンチョールで蜘蛛型のヒルコを撃退したり、自転車で(もちろん、ヘンテコ装置付き)校内を疾走したりと、スラップスティックコメディに、スプラッタ要素が加わるといった次第(実際、『死霊のはらわた』のようなカメラワークがある)。
 正統派な学園ホラーと言えるだろう。
 
 蜘蛛型ヒルコの評判は良くないようだ。
 確かに、『遊星からの物体X』のロブ・ボッテンによるSFXに比べると見劣りするものの、どっこい、羽根が生えて林に逃走するヒルコの後姿の悲哀感は独特のものがある。
 土蜘蛛(『天孫降臨』にも出てきましたね)っぽさとか、首をちぎって人間を乗っ取るシーンとか、結構好きなんですけどね。
 ただ、あんとく様風の昇天する霊体?や学校を俯瞰するシーンなんかの特殊効果はちょっとショボイなぁ。
 物語の肝だけに丁寧にやって欲しかった。

 全くもって諸星ワールドとは異質の世界観で制作したのは、当時としては慧眼だったと思う。
 なるべく情報量を削って、ミステリー仕立てと青春譚のみに絞ったおかげで、整理の行き届いたエンターテイメント作品として、観やすく仕上がっている。

 月島礼子を演じた上野めぐみは、当時、『おもいっきり探偵団 覇悪怒組』(『ボンボン』での連載も好きだったなぁ)や『世界忍者戦ジライヤ』などの東映特撮番組の常連で、それ目当てで観に来る人たちのためにか、イメージシーンが多いのはご愛嬌。
 ヒルコに乗っ取られて、ヒドイ顔したりしてますが・・・。

 観ておくべき作品だと思うのだが、やたらと高い。
 『塚本晋也#COLLECTOR’S BOX』にも収録されていて、それだと1枚あたりの価格は安い。
 本当に日本のDVDは高いな。因みに、輸入盤だと3分の1以下。

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最終更新日  2006年08月24日 23時04分43秒
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