テーマ:旅するシーカヤック(153)
カテゴリ:あるく、みる、きく
御手洗散策を終え、狭い海峡を渡って岡村島の浜にフネを揚げた。 テントを張り、着替えると、いつものようにビールの買い出しに町に出掛ける。
岡村島では、JAの経営するスーパーが一番大きな店であり、いつもそこで食材とビールを買い込んでいるのだ。 いつものように、海沿いの静かな島の道を歩いていくと、神社の方から賑やかな声が聞こえてきた。 ??? これはなんだ? 神社に行ってみると、幟が立ち並び、大勢の人が集まって何かやっている。 ほう、これは弓だ! 近くに寄ってみて見ると、6人のチームに分かれて、的に当てる本数を競っている様子。 帰ってから調べてみると、『弓祈祷』と言う、有名なお祭りだとの事。 それにしても、この島でこれだけ大勢の人が集まっているのを見たのは初めてである。 今日は活気があるなあ。 今日は祭りのようだ。 これは偶然とはいえ、良い時に来たものだ。 ようし、先にビールを買ってきて、飲みながらゆっくりと見物する事にしよう。 *** 歩いて行くと、いつものJAのスーパーは閉まっていた。 えー、ここも日曜日は休みなんだ! いつもキャンプに来るのは土曜日だもんなあ。 そこで、以前買い出しに行った事のある小さな商店へと向う。 『こんにちはー。 ビールありますか?』 奥からおばあさんが出てきて、『ええ、ありますよ』 『じゃあ、ビール4本と、日本酒をもらえますか』 『はいはい』 『いくらですかねえ?』 すると、年季の入った算盤で計算しながら、『この算盤、五つ玉なんよ。 珍しいでしょう』 『へえ、そうなんですか。 凄いですねえ。 初めて見ました』 これを切っ掛けに、いろいろな話しを聞かせていただく。 額に入れてある、数十年前のものだという煙草のポスター。 『近所の人がね、これを鑑定団にだしたらって言うの。 売ってくれって言った人もあったけど、売らなかったけどねえ』 『写真撮っていいですか? それはぜひ、大事にした方が良いですよ』 島に人が多かった時の話し、子供達が文房具や駄菓子を買いにきていた頃の話し。 当時は、関前町で3000人近い人が住んでいたらしい。 また、その子供達が大きくなって店に寄り、たまに懐かしい話題で盛り上がることもあるそうだ。 *** 『そう言えばさっき、神社で祭りをやってましたけど』 『あれはねえ、年に一度、建国記念日にやる祭り。 昔はねえ、祭りの2週間くらい前から射手宿(居手宿?)っていって、弓を射る人が集まって合宿をしていたねえ』 『そして祭りの当日は、そのころ町に2軒あった銭湯が朝3時頃から開いて風呂に入り、海で水垢離をして』 『そうですか、銭湯が2軒もあったんですか。 賑やかだったんですねえ』 『おばさんも、実は射手になって参加したかったんじゃないですかー』と笑いながらからかうと、『いいやいいや、あれは男の人だけじゃから』とおばあさんもニコニコしながら返してくれた。 *** 『ちかくにスーパーもできたし、子供も少のうなったし、もううちはいつやめてもええ、思うとるんよ』 『そんな事言わないで、続けて下さいよー。 さみしいじゃないですか』 『いろいろとお話を聞かせてもらってありがとうございました』 『また、祭りに行ってみんさい』 『はい、ありがとうございました』 *** 神社に戻ると、まだ祭りは続いていた。 射手の人達の傍に寄ってみようと近づくと、一瞬顔を見合わせた。 『おお!! どうしたんや?』 『あー!!! こんにちは。 今日は蒲刈から出て漕いで来たんですよ。 途中、御手洗で散策してから来ました』 そう、以前、この島に来た時に知り合った、瀬戸内カヤック横断隊ともゆかりのある、地元の方だった。 『ええ所に来たのう。 今日は、とまるんじゃろ?』 『ええ、祭りとは知らずに来たんですが、いつものように、浜でキャンプします』 『じゃったら、うちに来んか。 飯を食わしちゃるし、酒もあるで』 『ええんですか?』 『おお、ええええ。 来いや! 祭りももうちょっとで終わりじゃ』 『じゃあ、遠慮なくオジャマします』 *** 『ところで、こっちに来て、的に矢を当てた人を持ち上げるのを手伝うてくれんか?』 『私でええんですか?』 『ええよ、こっちへ来い』 靴を脱ぎ、射手の人達の後ろに待機。 見事、的に矢を当てると、その射手をみんなで持ち上げて何か唄いながら盛り上がる。 他所者の私で良いのかなあ?と思いながらも、射手を担ぐ人は年寄りばかりで大変そうだし、これまた楽しそうなのでついつい参加してしまう私(やはり、分別のある大人の社会人じゃあないのかもしれないなあ)。 *** そのうちに祭りが終わり、表彰式。 そして、餅撒き。 するとそのおじさんが私の方を向いて境内を指差し、『ようし、行くでー!』 よそ者なので遠慮して後ろの方で餅が飛んで来るのを待っていた。 子供からお年寄りまで、みんな楽しそうに、餅を拾い集めている。 後ろで待っていた私も、2つ餅をゲットできた。 テレビで見た事はあるが、餅撒きに参加したことはなかったので、これまたうれしい思い出だ。 *** 餅撒きが終わると、片付けが始まった。 私も最初は見ていたのだが、高校生や若い人達は帰って行き、お年寄りばかりで片付けている。 見かねていつの間にか、自然に片付けに参加していた。 杭を抜き、まとめる。 二人一組で畳を運ぶ。 見知らぬ人間が片付けを手伝っているのを見て、一緒に畳を運んでいるおじいさんが、『にいちゃん、どっから来たん』 『ええ、今日は呉から来たんです』 『誰かの知り合い?』 『あの、緑のジャンパーを着た人と、前に知り合いになって』 『ほうか、○○さんの知り合いか』 『それにしても、賑やかで良い祭りですねえ!』 『ほうじゃろう。 それにしても、手伝ってくれてありがとうのう』 別のおじいさんにも、『あんた、どこの人か』と訪ねられる。 『呉から手漕ぎのカヤックを漕いで来たんです。 あの、○○さんと、以前カヌーで来た時に知り合いになって』 『手漕ぎ? カヌーで来たんか? そう言えばあんた、前にも夏に来とったよのう』 『昔は、射手宿っていうのがあって、水垢離もしていたと聞きましたけど』 『そう、この祭りは、室町時代位から続いとる。 昔は、祭りの日に海で体を清めよった。 弓を射る場所は神聖な所で男しか入れんのじゃ。 うんうん、たしかに昔は銭湯もあったよのう』 『そして、水垢離をした後に、女子の体に触れたらまた水垢離しなおさなあかんということじゃったから、祭りの日の朝は、女子は出歩かんようにとも言うとった』 *** その後も、畳を運び、コンパネを運び、幟を倒し、竹の棒を片付ける。 あー、ようやく終わった。 カヤックツーリングに来て、まさか祭りの片付けまで手伝うとは思っていなかったが、いろいろな人と知り合えて良かったなあ。 『ようし、終わったぞー。 そろそろ行くか!』 *** 蒲刈島の県民の浜から漕ぎ出して、御手洗の町を散策し、観光協会の人達と盛り上がった後は、岡村島で祭り見物と片付けの手伝い。 『あるく、みる、きく、をテーマにした旅するシーカヤック』の、思いもかけない充実した長い一日。 これから、地元で知り合った方の家へと向うのだ。 旅とは、不思議な縁に導かれて進んで行くものである。 フーテンの寅さんが大好きな俺には、どうやら、分別のあるバリバリビジネスマンの大人の味よりも、風の吹くまま気の向くままの、『サラリーマンカヤッカー放浪記』がお似合いのようだ。 その(3)につづく。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
February 13, 2007 09:38:40 PM
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