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瀬戸内シーカヤック日記

瀬戸内シーカヤック日記

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June 30, 2007
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梅雨の晴れ間の土曜日。 家のベランダから眺めると、海はもやで霞んでいる。 今日は予定を変更し、航路を横切るルートはやめて、奥ノ内湾周遊日帰りツーリングにしよう。

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9時半前。 準備(日帰りツーリングなので、準備というほどのものはないのだが)を終えて出艇。

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↑ 靄のかかった瀬戸内海を漕ぎ進む

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奥ノ内湾ツーリングで思い出すのは、以前発見した渡海船

その後、どうなっているか確かめるため、今日も様子を観に行ってみた。

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↑ 以前と同じように係留されている渡海船、『伯方丸』

瀬戸内の島々の生活を支えて来た渡海船。 まだ残っていたが、かなり傷んでいる。 なんだかさみしいな。

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気を取り直して再びパドリング。 今日は久し振りに、エルコヨーテのワークショップで製作した『グリーンランドパドル』が相棒だ。

自分の手に合わせて削り出し、磨いたので、ぴったりと手に馴染む。 檜の木の感触も心地良い。

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奥ノ内湾をグルリと廻り、弁天島を越え、鈴鹿島へ。

潮が引き始め、わずかな浜が顔を出していたので、久し振りに上陸してみる事にした。
狭い浜にフネを引き揚げ、ロープで岩に繋いで流れ止めを施す。 こんな小さな浜があれば上陸できるのも、シーカヤックの利点である。

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岩場を登り、一休み。 うん、良い眺めだ。

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再びフネを出し、小情島を越えて情島へ。
顔見知りになった漁師さんは、今日はお休みの様子。 桟橋に漁船が係留してあった。 会えなくて残念だ。

港に入り、いつものようにスロープにフネを揚げさせていただき、手荷物を持って日当たりの良い防波堤へと向う。

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少し早いが、昼ご飯の準備に掛かろう!
今日は、カップヌードル・リフィルと、コンビニで買って来たおむすび。 お気に入りのアルコールバーナー、『パイトーチSSS』を取り出し、エタノールを入れ、マッチで点火する。

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20年近く使っている、ベコベコになった薄いアルミ製のコッフェルを載せ、お湯を沸かす。 お湯が沸いたら、カップヌードル・リフィルに注ぎ、3分待つ。

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小さな島の、静かな漁港の風景を眺めながら、簡素な昼ご飯。 良い時間だなあ。

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しばらくすると、島の海沿いの道を、一人のおばあさんが歩いてくる。 途中で立ち止まり、スロープに揚げたカヤックをひとしきり眺め、再び歩き出す。

防波堤の近くに来ると、ちょうど良い段差のところに座り、『あんた、どっから来たんね?』
『こんにちは。 今日はあのフネで波多見から出て、奥ノ内湾をぐるっと廻って来たんですよ』

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『ありゃあ、カヌ-言うものかいね』 『そうですよ』 すると、両手でパドルを動かす動作をしながら、『そりゃあ、大変じゃろう』 『そうでもないですよ、ここまで1時間半くらい』

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いろいろと話しを聞いてみると、昔はご主人と一緒に漁に出ておられたとの事。
『そうなんですか! どこら辺に行かれてたんですか?』 『そうじゃねえ、黒島とか、藍島の方に行きよったよ』 『何を獲りよったんですか?』 『サワラ(鰆)やら、エビやら』

『鰆が獲れよった頃は、漁師さん達は良かったそうですね』 『うんうん、そうよ』
私は手を広げて、『鰆って、これくらいですか?』 『いいやあ、そんなんはサゴシいうんじゃ。 サワラゆうたら、1mくらいあるよ。 子(卵)もこんな大きいのが二つ入っとって、高う売れたよ』
『そりゃあ、美味いでしょうねえ』 『ああ、おいしいよ。 でも私らは、その頃は食べるより売る方が良かったよ』

今は、ご主人も、一緒に漁をしておられた方々も高齢化し、漁には出ておられないそうだ。 まだまだ立派な船も残っているのに、もったいないなあ。

***

『ここら辺の漁師さんは、日帰りですか?』 『そうじゃね。 サワラ漁は夜じゃから、夕方出て網を下ろして、朝方網を揚げてから帰ってくるんよ』
『あっちの豊島の方じゃあ、大分の方まで行って、泊って漁をしよると聞いたんですが』 『うん、あの人らは、日本中いろんなところに行くらしいよ』

『やっぱり、豊島の漁師さん達の家船の話しは聞かれた事がありますか?』

『昔はねえ、ここらでも太刀魚が獲れよった頃があって、その当時は豊島の人らが漁に来よったよ』
『夜はこの港に船を泊めて休んだり、何度も来るけん馴染みができて、家に上がって話しをしよる人らも居ったよ』
『そうそう。そういやあ、小さい子供らを何人も乗せて、漁に来よった船もあったねえ』

なんと、豊島の家船が、この情島にも来ていたのだ! また、点と点がつながった!

***

『さあて、そろそろ帰ろうかねえ』 気が付くと、もう1時間以上も話し込んでいた。
『今日は、ええ話しを聞かせてもろうて、楽しかったですよ』 『あんた、帰るとき、潮は大丈夫ね?』 『逆潮ですけど、これくらいならぜんぜん大丈夫ですよ』

『気を付けて帰りんさいね』 『ありがとうございました。 また遊びに来ますけん、暇じゃったら、また話しを聞かせて下さい』

***

情島で生まれ育ったおばあさん。
漁にでることのなくなった今は、静かな島で、ゆっくりと生活されているようだ。

呉とかに出る事はあまりないんですか? と聞くと、ほとんどないねえとのこと。 買い物は、電話一本で連絡船が運んでくれるし、島におれば静かで景色が良いし、だれもうるさい事は言わないし。

『それに、ここには交通事故もないしねえ』と笑いながらおばあさんは言う。 私もニヤニヤしながら『それはそうですよねえ! クルマもないし、バイクもないし。 静かで安全で良いよねえ』
そう、この島では、クルマが走れる幅の道もないし、走っても数十秒で端から端まで到達してしまう。 ここで一番活躍するのは、手押し車なのである。

***

天気が良い日は、南側の浜辺に行って、きれいな海と、その海を行き交う船を眺めるのだとか。 なんとも贅沢な時間じゃないか!

瀬戸内の小さな島を訪れた日帰りツーリング。 私も、良い時間を過ごさせていただいた。
『おばあちゃん、ほんまにありがとう』





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Last updated  July 1, 2007 05:19:06 AM
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