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瀬戸内シーカヤック日記

瀬戸内シーカヤック日記

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July 29, 2007
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3月末に訪れた、『家船で有名な豊島』。 その時に知り合った地元の方を介して、豊島でカヤックをやっておられる方が居られる事を知り、その方にお会いする事と家船の再調査を目的に、再び豊島を訪れる事にした。

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上蒲刈の大浦港からフェリーに乗り込む。 海水浴シーズンでなければ、近くの海水浴場からシーカヤックを出して漕いで行くところだが、浜が使えないこの季節は基本的にシーカヤックの旅はクローズなので、短いながらも好きな船旅を楽しむ。

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桟橋に付くと、前回の訪問で知り合いになった回漕店の方が待っていて下さった。 うれしい再会!
挨拶を交わし、近況を報告すると、さっそく豊島でカヤックをやっておられる方の所へと向う。

自己紹介を済ませると、カヤックを見せていただきながら豊島でのカヤックの事を伺い、私の方は、フィールドライフ春号をお渡しして、この豊島の近くを毎年通る『瀬戸内カヤック横断隊』の旅や尺取り虫方式での瀬戸内横断の旅、日本海を北上して行く古代人ツアーなど、私の旅するシーカヤックの事を紹介させていただいた。

『このあたりは潮流はすこしキツいですけど、海もきれいだし島もたくさん有るし、好い所ですよねえ。 秋になったら、ぜひ一緒に漕ぎましょう』
今回は急な訪問なのに時間を割いて対応していただき、本当にありがとうございました。 今度、この豊島の海でご一緒させていただくのを楽しみにしています。

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1時間弱のお話を終え、回漕店の方に、豊島一周道路経由で集落まで送っていただく事になった。
ホクレア号の事、豊島の事、開発中の特産品の事などなど、四方山話をしながら、静かな島の道をのんびりゆったり、トコトコと走って行く。 なんとも心地良い島時間。

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↑ 架橋中の豊島大橋。 この橋が架かると島の生活はどのように変わるのだろうか?

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集落の近くで降ろしていただき、『今日はどうもありがとうございました。 じゃあ、これから散歩してきます』

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↑ 一歩中に入ると、島らしいせまい路地、路地、路地。 まるで迷路の様で楽しい。 またこの島には、瀬戸内の小さな島には珍しく魚屋さんがある!

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お昼ご飯は、前回も訪れた、お好み焼きの『まりちゃん』

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↑ おいしいお好み焼きが食べられる『まりちゃん』

今日も、多くの注文が入っているようで、たくさんのお好み焼きが鉄板一杯に並べられ、手際よく焼かれて行く。 しばらく待っているとようやく座れるスペースができ、店内に。
私を一目見て、『あんた、だれじゃったかいねえ? あ、前に呉から来た人か!』 どうやら、顔を覚えておいていただけたようだ。 うれしい。

『にいちゃん、ちょっと待たんと駄目よ』 『はい!』
『にいちゃん、鉄板で食べる? こっちきんさい』 『そっちじゃない、ここ、ここ。 そこの荷物はあっちへ置いて』 『はーい!』

ちゃきちゃきの豊島っ娘の『まりちゃん』の言葉に、私は素直に従うのみ。 いいんだなあ、この店の雰囲気。
おいしいお好み焼きを食べていると、そばに座ったおばさんにも話しかけられ、冗談を言い合いながら、笑いながらの楽しい昼ご飯。

『ごちそうさまでした。 おいしかったです』 『ありがとね。 またきんさいよ!』

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昼ご飯を食べた後は、良い雰囲気の港町の路地を、しばし散策。

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↑ 港の目の前にある『胡神社』にお参り

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↑ 村でも町でも新しく訪ねていったところはかならず高いところへ上がってみよ(宮本常一の父の言葉)!

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集落をグルリと一回りし、漁港に行くと、一人の漁師さんが仕掛けの手入れをしておられた。
『こんにちは。 これは何の針ですか?』 『うん? こりゃあ、フグ用の針じゃ。 どうしたんか?』

『今日は、豊島の家船を見に来たんですよ』 『船でも買いに来たんか?』 『いやいや、この本を見て、豊島の家船に興味を持ったんですよ。 3月にも一回来たんですが、また今日も写真を撮ろうと思うて』

と言って、ザックから一冊の本を取り出す。 『家船(えぶね)の民俗誌 現代日本に生きる海の民(金柄徹)』
するとその漁師さんは本を手にとり、『おー、この本を書いたのは』金さんか!

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この漁師さんも、2年近く豊島に住み込んで家船の調査を行った金さんの事をご存知だった。 ほうか、あの人はこんな本を書いたんか。 そういやあ、いろんな写真を撮りよったよ。

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『あの、この針の写真を撮ってもええですか?』 『おお、ええよ。 こんなもん撮ってどうするんや? どうせなら、この新しい針も撮れ』 『ありがとうございます。 海の文化に興味があるもんで』 『こんなんに興味があるとは、変わっとるのお』 『そういやあそうですねえ』

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この本を切っ掛けに、様々な話しを伺う事ができた。

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↑ 豊島の家船(えぶね)

『今は、漁業権じゃなんじゃで難しゅうなったが、昔はいろいろと行きよったモンよ。 愛媛の方から、山口の上関や沖家室の方、それに長崎や対馬、五島。 中には、八丈島まで鰹を釣りに行きよったもんもおる』 『今も、何隻か五島の方に行っとるはずじゃ』

『エンジンが無かった頃は、この下にあるくらいの小さい二丁櫓の舟で、手漕ぎで豊後水道の方まで漁に行きよったよ』

『昔はのう、GPSもないけん、海の地形やどこに餌になるエビや魚がおるいうのを、山立てで全部覚えとったもんよ。 そりゃあ漁で生きるためじゃけんのう。 豊島の近くから、松山、山口、豊後水道の方まで、全部頭に入っとるよ』

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↑ 帰って写真を整理してから気付いたが、包み紙には『かむろ針』と書いてある! これは、沖家室のかむろ針か!

『延縄の仕掛けがのう、時々底引き網なんかに引っかかって切れる事がある。 そんなときは捨てて帰る訳にいかんけえ、引っ掛けて引き揚げて帰るんじゃ。 でものう、延縄いうたら、1万メートル位になるじゃろう。 わしらは仕掛けを流す時に、どんなふうに曲がりながら流れとるかを頭に入れとるし、切れてからの潮流なんかも計算して、仕掛けが流れた場所を読むんじゃが、これがだいたいおうとるんよ。 いちいち切れたのを捨てて帰りよったら、儲けにゃあならんけえのう』

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↑ 漁港の中で海水浴を楽しむ地元の子供達。 なんとも好い光景じゃあないか!

『わしらは、ろくに学校へは行っとらんが、親から海で生きるための知恵を覚えさせられたわい。 じゃけえ、月の事や潮の事、海の地形や底の土質なんか、全部頭に入っとる。 これで飯を食って行かんといけんけえのう』

『正月? そりゃあ海がつながっとるんじゃけん、盆と正月にゃあ豊島に帰るよ。 正月に長崎の方に行っとる時、海が荒れたら船をドックに預けて新幹線で帰る事もある。 今は油が高うなったけえ、新幹線で帰る方が安うあがるわ』

『もうみんな年寄りになっとる。 あと10年もすりゃあ、豊島の漁師もほとんどおらんようになるんじゃないかのう』

***

豊島の家船の漁師さんに出会う事ができ、貴重なお話を伺う事ができた。 至福の一時。

『あんたあ、こんな事を調べて、金さんみたいに論文でも書くんか?』
『いえいえ、私はただのサラリーマンですから、自分の興味で調べとるだけですよ。 でもこれが楽しいんです』 『シーカヤックで瀬戸内や日本海を旅して、漁師さんからいろんな話しを聞くのが大好きなんです。 本当に、思いもかけない面白い話しを、いろいろと聞かせていただけるものですから』

『今日は本当にありがとうございました! 貴重な話しを聞かせてもらって、嬉しかったです』

***

あるく、みる、きく 家船の島、豊島再訪の旅。 今回も、新たな出会いや懐かしい再会があり、最高の一日となった。
家船を一例とする瀬戸内の海洋文化。 その奥は深い。





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Last updated  July 29, 2007 07:33:26 PM
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