テーマ:旅するシーカヤック(153)
カテゴリ:あるく、みる、きく
だれも居ない静かな浜辺に張ったテントの中で、夜中に目を覚ます。 メッシュテントの中は、少し寒いくらいに感じる。 テントから這い出すと、空には満天の星。
再びテントに潜り込み、準備しておいたシルクのシーツを取り出し、薄くて肌触りの良いそのシーツに包まって再び眠りに入る。 *** 朝方、目を覚ましてテントを出ると、ちょうど水平線から太陽が顔を出したところ。 なかなか良い一日のスタートである。 朝食は、乾燥ワカメとネギをたっぷりと入れた、温かいうどん。 もやが掛かった瀬戸内の朝。 まだ気温も低く、温かいうどんがちょうど良い。 *** 食事を終え、コッフェルを片付けていると、遠くから私を呼ぶ声が聞こえて来た。 『おーい!』 見ると、昨日の夕方、見ず知らずの私に釣りたての魚を下さった島の方だ。 『おはようございます。 昨日はありがとうございました』 『おう、魚は食ったか?』 『ええ、すぐに捌いて食べましたよ。 美味かったです』 『そうじゃろう。 釣りたてじゃからのう』 今日は自転車でここまで来られた様子。 手には銛。 『今から、蛸を探してみようと思うて』 『えー、タコが獲れるんですか?』 『本当はもうちょっと早う来んといかんのじゃけど、まあ、一匹でも二匹でも獲れればええと思うて』 その方は海に入られ、私は再び片付けを始める。 しばらくすると、『おーい! こっちこっち!』 見ると、銛にはタコが! 急いでカメラを手に、浜へと向う。 『スゴイ。 水中メガネも無しで獲れるんですね!』 『おい、これはあんたにやろう』 『ええんですか?』 『おお、ええよ。 茹でて食え』 『ありがとうございます。 遠慮なく頂きます』 『ええか、湯が沸いてから10分茹でるんで』 『はい』 再びコッフェルを取り出し、バーナーをセットして、お湯を沸かす。 湯が沸いたら、タコの頭を持ってお湯に。 10分間待つ。 おお、これは美味そうだ。 *** しばらくすると、その方が海から上がって来られた。 今日の獲物は、先ほどの一匹だけらしい。 『すみません、一匹なのにいただいていいんですか?』 『ええよええよ。 昨日の夕方から、あんたがここに居る事が分かっとったから、一匹でも獲れたらあんたにやろうと思うとったんや』 ありがたいことである。 昨日の夕方は、釣りたてのキスとアジ。 今朝は獲りたての蛸。 感涙! 『この島にも、カヌーしよるんがおるんで』 『ええ、ダイドックでしょう』 『お、知っとるんか』 『もう、何年も前からお世話になってるんですよ』 『そうか、ダイドックが昨日今日の事を聞いたらおどろくじゃろうな』 『そうですね』 *** 『おお、そうじゃ。 あの蛸、足が一本なかったろう』 『ええ』 『銛に一本残っとった。 これを、茹でずにそのまま食ってみい。 ほれ』 ビクトリノックスを取り出し、身を削ぎながら生のタコ刺しをいただく。 ちょうどよい潮味/塩味。 こりこりとした歯触り。 これまた旨い。 タコを齧りながら、その方と暫し歓談。 佐合島に戻って来られるまでの、様々な人生経験について聞かせていただいた。 『今は、釣りに、蛸獲りに、島の生活を満喫されていますよねえ。 うらやましいです』 『また、遊びに来てもええですか?』 『おう、いつでもきいや』 『ありがとうございます』 *** 茹でたての蛸を食べ、荷物を片付ると、さすがに日が昇って暑くなって来たので海に飛び込んで体を冷やす。 ああ、気持ち好い! 残った蛸は、家族へのお土産としよう。 *家に帰って夕食のおかずの一品となったが、おいしくて家族には好評だった。 おじさん、本当にありがとう! *** 荷物をパッキングし、靄のかかった海に漕ぎ出す。 佐合島の南岸を漕ぎ、ミニミニ(なんちゃって)ロックガーデンを抜け、出発した浜に戻る。 久し振りのキャンプツーリング。 真夏のこの時期は暑いので、漕ぐよりは海水浴や日陰での休憩が気持ちよいのだが、今回は思いがけない親切な方との出会いがあり、島に住む人の人情と、瀬戸内の夏の海の幸をたっぷりと堪能する事ができた。 本当にありがとうございました。 また遊びに行きますので、その時はよろしくお願いします! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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