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瀬戸内シーカヤック日記

瀬戸内シーカヤック日記

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August 18, 2007
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昔の猪目について、いろいろなお話を聞かせていただいたおばあさんが家に帰られ、特製ベンチで海を眺めつつ独りでビールを飲んでいると、昼間にお会いした、地元の方が歩いて来られた。

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↑ 今回の、あるくみるきく_旅するシーカヤックの主役となった、猪目の『特製ベンチ』

『こんばんは。 だいぶ涼しくなりましたねえ』 『おお、そうじゃの』と言って、特製ベンチに腰掛けられた。

***

『今日は、昼からバスに乗って大社町まで買い出しに行ってきました』 と切り出し、その方との会話が始まった。

『このベンチはなあ、ここの長老達が海を眺める特等席なんよ』 『ええ、さっきも、地元のおばあさんにここでお話を伺いました。 本当に良い場所ですよね』
『でもなあ、朝ここにきてみると、これが下の浜に持って行かれとる事がある。 困ったもんじゃ』 『だれか、いたずらで転がすんですか?』 『うん、そういうのもあるし、下でテーブル代わりに使おうとする人も居る』 『でも、この重たいのを上まで持って上がるのは大変でしょう』

二人で海を眺めつつ、会話は続く。

海況が厳しいので、ほとんど夏場だけが漁期となるこの辺りの漁の話し。 漁協によって、網の張り方にそれぞれ流儀があるという話し。 漁獲高が少なくなり、禁漁期間や禁漁日が増えてきつつある事。 この辺りで盛んな冬場の海苔採集の話しと、最近の温暖化で海苔がだんだん撮れなくなっていること。 

猪目の港から出て行く船を見ながら、
『日本海の他の漁港でも、最近は油が高くなって儲けがあまりないとか、漁に出ているのは、定年を過ぎて、本業でなく遊びも兼ねて出ている人じゃないとやっていけないとか聞きますが、ここではどうですか?』
『うん、平日は他で働いて、日曜日だけ出る人が多いが、平日の仕事で疲れとるし、休みの日も会社に出てくれと言われたら出んといけんから、漁に出られる人は減っとる』そうだ。

『ここは、分校がありましたが、まだ生徒は居るんですか?』 『居るよ。 でも、生徒の数より先生の方が多いくらいかのう』 『でも、子供が居るのは良いですねえ。 うちの方でも子供が減って、小学校の統廃合が進んでいますからねえ』 『ここの分校は、カジカ蛙の研究で有名なんよ』 『カジカ蛙は、あの川に居るんですか?』 『そうそう』

『さっきのおばあさんに、夜は鹿がでるかもしれんと脅かされたんですが』 『ああ、でるかもしれんなあ。 鹿は夜、そこの川に水を飲みに来よるし。 玄関先にも来るんじゃけん』 『そうですか』
『ここは、鹿がでるおかげで、畑でキュウリや茄子を作っても食べられるし、墓に菊を供えても、あいつらは菊の花が大好物だから、花だけぜんぶ食べてしまう。 困ったもんじゃ』

***

その方も帰られると、再び独りで浜の特製ベンチにポツリと座り、心地良い風を感じながら静かにビールを飲む。

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暗くなると、テントに潜り込み、ヘッドランプの明かりで本を開く。 今日は、『日本書記(上)』
黄泉の国への入り口とされた『猪目洞窟』近くの浜に張ったテントで読む日本書紀は、また特別の感慨である。 これぞ、古代人ツアーの醍醐味の一つ。

***

朝は6時に起床し、7時には出艇準備完了。 出ようとすると、昨日のおじさんが浜に歩いて来られた。
『おはようございます』 『おはよう。 今から漕いで来るんか?』 『ええ、1時くらい。 散歩がてら、ちょっと出てきます』

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↑ 朝日は眩しいが、まだ涼しく、快適なパドリング

今日は、まだ暑くならないうちに、東側に向けてお散歩ツーリングだ。
朝日に向って、快調に漕ぎ進む。 海は、夏とは思えないくらいきれいに澄んでいる。

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岩礁地帯では、船上からアワビやサザエを採る漁師さん達が働いておられてた。 箱メガネで海中を覗き、片手で銛を持ち、足で舵を操作する。 いつ見ても、すごい職人技である。

途中、日陰となる岩陰で、アンダーデッキバッグから水とパンを取り出し、軽い朝食。 食後は、海水に浸けた歯ブラシで歯磨き。 これが気持ち良いのだ。

涼しい朝の日本海で、1時間ほどの海の散歩を楽しみ、浜に戻る。 私にとっては、漕ぐ事はシーカヤックの楽しみのほんの一部に過ぎない。 野田さんも言っておられるように、ただ漕ぐだけでは楽しみに幅がない。
そう、だからこそ私は、『あるく、みる、きく_旅するシーカヤック!』

***

シーカヤックをカートップし、荷物を片付け、シャワーを浴びる。 帰り支度をしていると、地元のあの方が来られた。

『おお、帰るんか。 また機会があったら遊びに来いよ』
『今回はいろいろとお世話になり、ありがとうございました。 それにしても、ここは本当に好い所ですよね。 来年、また絶対に遊びに来ます』
『ここには、店もないしなんにもない。 自然だけしかないが、それでも良かったらまたきんさい』 『いやあ、それが本当の贅沢ですよ』

『じゃあ、道中気を付けてな』との、なんともうれしいお言葉。 うん、本当にここに来て、キャンプツーリングにして良かった!

***

帰りは、頓原ラムネ温泉で潮抜きし、一福でおいしい出雲蕎麦を食べ、家路についた。

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あるく、みる、きく_旅するシーカヤック、島根半島_猪目篇。 これにて完結!





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Last updated  August 22, 2007 07:44:48 PM
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