テーマ:旅するシーカヤック(153)
カテゴリ:あるく、みる、きく
だれもいない静かな浜に張った、一人用の小さなテントの中で目を覚ます。 時計を見ると、5時前だ。 今日の日の出は6時過ぎなので、まだ外は暗い。
5時を過ぎるとケータイを取り出し、更新されたばかりの最新の天気予報をチェック。 今日も曇りがちだが、どうやら晴れ間も期待できそうだ。 良かった! *** 5時半過ぎにはテントから這い出し、東屋のベンチに座ってストームクッカーでお湯を沸かす。 お湯が沸くと、インスタントの『チャイ』を入れ、、次第に明るくなって行く瀬戸内の海を眺めながら、朝のお茶タイム。 静かな浜辺の朝。 一人きりで海を眺めながら、土曜日の夜に偶然見たNHKの番組、『あの人に会いたい』で、寅さん/渥美清さんが語られていた言葉を思い出した。 『チョウチョかトンボのように、好きなところにフラッと出掛けて生涯を終われるなら、末は野垂れ死んでもいいんじゃないですかね。 そんな人生も好いなあと、寅さんを演じている私自身も思いますよ』 そんな感じの事を語っていた、寅さんのその言葉を聞きながら私は小さく頷き、一緒に見ていた妻と息子たちは、私の価値観/人生観との共通点を感じたのか、目を見合わせて苦笑い。 *** 日が昇るのを待ちながら、朝食の準備。 今朝は、妻が買ってきてくれていた『アンデルセン』のパンと、ベビーハンバーグ、そしてオニオンスープ。 簡素だが、おいしい朝食を食べていると、日が昇ってきた。 ちょうど、東側にある小さな島の頂から日が射してくる。 うん、きれいだ。 瀬戸内らしい景色を眺めながら、きれいな東屋の下で食べる朝食。 コーヒーも美味い。 なんという豊かで贅沢な朝なのだろう。 本当に、ここに来て良かった。 *** 食事を終え、テントを畳み、シュラフを片付け、荷物を整理する。 一仕事終えると、再びアルコールバーナーでお湯を沸かし、ゆっくりと食後のコーヒー。 *** ちょうど潮止まりの時間だ。 さあて、そろそろ帰るとするか。 シーカヤックに荷物をパッキングし、朝の海に漕ぎ出す。 今日は、生野島の南岸を通って契島を回り、満ち潮に乗って出発した浜まで帰る予定。 大崎上島と生野島との間の瀬戸を抜け、バウを北に向けて契島へ。 この辺りは、潮が複雑で早い。 ちょうど満ち潮に変わったばかりの時間のはずなのだが、契島と生野島との間の瀬戸は、ザワザワと潮が波を立てて流れていた。 流れを観察し、波の状態を見ながら、潮に乗って漕ぎ進む。 *** 帰りは、少し遠回りしてパドリングを楽しんだので、1時間半ほどで出発した浜へ戻った。 カヤックを浜に引き揚げ、荷物を運んでいると、いつもこの浜で散歩されているおじいさんが歩いて来られた。 『おはようございます。 今日はもう、帰ってきました。 昨日から、生野島に行っていたんですよ』 すると、『天気が良くて好かったなあ』と言いながら、近くの防波堤に腰掛けられた。 80歳を過ぎている、地元で生まれ育ったと言うこのおじいさん。 カヤックを出すためにこの浜に来るとたいていお会いする機会があり、その度に、この辺りの昔の海の話しや、海での遊びの話しを聞かせていただける。 うれしいことだ。 今回も、大阪汽船の客船が目の前の海を行き交っていた頃の話しや、小学生の時、呉線がまだ開通していない頃に、船で広島まで修学旅行に行ったときの想い出話。 海辺がまだ松林だったころ、松の木から海に飛び込んで遊んでいた話し。 小学生の頃からフネを漕いで釣りに出ており、中学生の頃には、釣り好きな学校の先生を日曜日に海に連れて行き、良い成績を付けてもらったと言う話し。 すぐ目の前の海で、ミル貝やタコ、ワカメがたっぷり獲れていた頃の想い出話などなど。 話しを伺っていると、目の前に広がるこの海の、60年前、70年前の様子が、私の目にもありありと浮かんで来るようだ。 生野島の、美しいが誰もいない静かな浜で独りきりの一夜を過ごした後だからこそ、地元の方とのこのような会話が楽しく、また、チョウチョやトンボのようにフラリと訪ねてきたこんな私に、様々な昔話しをしていただける地元のおじいさんの親切が、身にしみて感じられるのだと思う。 *** 『また、遊びにきんさいよ』 『ありがとうございます。 また、話しを聞かせていただくのを楽しみにしています』 久し振りの生野島キャンプツーリング。 天候にも恵まれてシーカヤックツーリングもソロキャンプも楽しみ、地元のおじいさんから昔の話しも伺って、のんびりまったりと、充実した瀬戸内の島時間をたっぷりと堪能する事ができた。 ほんとうに良い休みだったなあ! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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