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瀬戸内シーカヤック日記

瀬戸内シーカヤック日記

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January 6, 2008
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カテゴリ:あるくみるきく
1月5日の夕方。 家船で有名な『因島の箱崎漁港』を後にして、借りた自転車で因島に渡った目的の一つである銭湯、『紅梅湯』さんへ向かう。

メインの道路から一本中に入った、かつての繁栄の名残を感じさせる、私好みの雰囲気を残す通りに面して、その入り口はある。



暖簾が掛かっていなければ、とうてい銭湯とは分からない佇まい。 ガラリと引き戸を開け、番台のおばさんに、『開いてますか?』 『ええ、開いてますよ』

『いくらですか?』 『370円』 『じゃあ、これで』

噂には聞いていたが、なかなか私好みの『昭和の匂い』のする銭湯である。 さてさて、ゆっくりと潮抜きする事にするか。

***

浴槽は一つだけ。 蛍光灯の数が少ないので、決して明るくはないが、窓から差し込む夕日で照らされ、なかなか好い雰囲気を醸し出している。

体を流して湯船につかる。 『あー、やっぱり大きい風呂はええなあ。 来て良かった!』

昨夜シュラフで寝た疲れ、海を漕いだ疲れ、寒い中自転車を漕いだ冷え。 これら全てが体から溶け出し、全身が、心がほぐれていくのが実感できる。

***

体を洗い、ヒゲを剃り、再び湯船へ。 しばらくすると、一人のおじいさんが入ってこられた。

『こんにちは』と私。 すると、『ああ、こんにちは』、と笑顔で返ってきた。

『にいさん。 耳の所に石鹸の泡が残っとるよ』 『あ、スミマセン。 ありがとうございます』 湯船から出て、耳の所をお湯で流す。

これをきっかけに、話が始まった。

***

『やっぱり銭湯が気持ちええなあ』と、そのおじいさん。 『そうですよねえ、やっぱり体が伸ばせる大きなお風呂が良いですねえ』と、私。

『ここにはよくいらっしゃるんですか?』 『毎週土曜日に来る事にしとるんよ。 昔は何軒も風呂屋があって、家の近くにあったんじゃけど、どんどん減って、今は2軒だけになってしもうた』

『昔はこのあたりも賑やかだったらしいですね』 『そうそう。 ちょうどわしらが学校を卒業した頃は、造船が景気がようて、どんどん人を採りよった時期じゃ。 あの頃はえかったよ』

『その頃はの、ぜんぜん人手が足りんかったから、どんな人でも採用して、その人におうた仕事を与えて』 『なるほど』 『給料日なんか、この辺りの飲み屋で大勢潰れよったもんよ。 店の女の人がチップくれじゃなんじゃゆうて、ようけお金が要りよった。 まあ、わしは一晩に使う金を決めとったから、そんなに取られんかったけどのお』

『ところで、どんなお仕事だったんですか?』『わしゃあ、溶接をやりよった。 まあ、溶接以外になんでもやったが、アルミの溶接が得意じゃったけえ、ええ給料をもらったよ』

『アルミの溶接ですか! あれはブローホールが出来たりして難しいですよね』 『そうそう』

『じゃけえ、アルミの溶接なんかは、まずは若いヤツにやらせてみて、仕上げは玄人がやるんよ。 そうせんと、付いたように見えても、すぐに外れたりする』

『それに、やらせてみて、ああ、こいつは筋がええとか、こいつは向いてないとか、そういうのを判断しよったんよ。 筋が悪いヤツは、別の仕事に替える』 『うん、やっぱりそういう仕事は、向き不向きがありますよね』 『そうよ』

***

昭和の匂いの残る因島の銭湯で、最も造船業が盛んだった頃に現役でおられた地元のおじいさん。
一つの湯船につかり、かつて造船所で働いておられたおじいさんから、興味深いお話を伺う事ができた。

これぞ、旅するシーカヤッカーの至福の一時!

『どうもありがとうございました。 そろそろ出ます』 『じゃあの』

***

再び自転車でフェリー乗り場に向かい、生名島へと戻る。

36

キャンプ場では、良い雰囲気の夕暮れ時。

07

ああ、今日も充実した旅の一日であった。

***

1月6日。 朝9時前に、お世話になったキャンプ場を後にする。

『どうもお世話になりました。 おかげさまで、とても快適に過ごせ、また充実した旅を堪能できました。 また、遊びにきます!』 『じゃあ、気をつけて帰ってください』

立石港に向かい、フェリーに乗り込む。

料金を徴収に来られた船員さんに、いつものように550円を払おうとすると、
『昨日、このカヤックで一周してましたよね』、と声をかけられた。

『え、見ておられたんですか』

すると笑顔で、『ええ。 なんか、ゆったりして好い旅だなって思って』

私も笑いながら、『ありがとうございます』

うん、見ている人も居るんだ。 声をかけていただけるなんて、やっぱりうれしいな。

***

数分の短い船旅を終え、因島に到着。

エンジンをかけ、フェリーから降りるとき、誘導していた先ほどの船員さんが、ニコリと笑いながら会釈してくださった。 おお!

私も笑顔で会釈を返す。 うれしい一瞬。 このような、ちょっとした人との触れ合いが、旅するシーカヤックの醍醐味の一つである。

***

シーカヤックを漕ぎ、自転車を漕ぎ、キャプ場で、銭湯で、そしてフェリーで様々な人との出会いのあった、しまなみ連泊ツーリング。

うん、2008年の初漕ぎとなった、生名島での『あるくみるきく_旅するシーカヤック』は、なかなか良い旅だった。

今年もよろしくお願いします!





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Last updated  January 9, 2008 07:25:46 PM
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