カテゴリ:日々のカケラ
「おめでとう」とニコニコ微笑んで、ヨシエどんが言った。「えっ?」と向かっていたパソコンの日付をのぞいた。そうか、結婚記念日だった。昨日で、いっしょに歩き出して31年目。高3で同じクラスになって以来、もう干支が3周もしてしまった。長かったのか短かったのか、何かの記念日がめぐってくると、最近はそんなことばかり思ってしまう。サッシの磨りガラスから柔らかな朝日が差し込んで、人生の同伴者を照らしている。何年かしたら、そんなこともまたなつかしく思い出すのかも知れない。 「ほんじゃ、今夜はどこかで食事でもする?」 「いえ、いえ」 「はうす」 しゃれた会話が飛び出して、ふたりで笑った。 午前中は白山の筋肉痛を持て余しながら雑誌の取材。曹洞宗の古刹大乗寺を撮った。ご住職の東隆眞禅師の簡潔でしかもていねいな話を伺いながら、それでもぼくの心は少しうつろだった。若者たちにもっとお寺に親しんでもらおうとコンサートなどいろんな催しをされているそうだが、観光コースからはずれたこの静かな山寺の雰囲気は、何にも代え難い。必要のある若者が訪れるだけでいいのではと、昨日までの白山を想いそんなことを感じていた。 このままじゃなんにもない記念日だなと、少し気になったが、アイディアも浮かばずに帰宅した。おお、そうだ。昨日北海道の友から届いたばかりの秋鮭が丸ごと1尾、どかんと玄関脇に鎮座していた。コックの弟が忙しいからと今日までそのままになっていたが、これを捌くことで記念日にするかと決めた。決めると、弟宅から電話。ヨシエどんの実の妹でもあるイッちゃんからだ。それではと、ここはやっぱりプロの腕に頼ることにした。見事な鮭は、美しい切り身にしてあげたい。 ハードな仕事のあとで疲れているだろうに、手際よく淡々とさばく弟を見ていると、言葉にはできなかったがありがたいなぁと少ししんみりした。これで何年目だろうか。北の幸を届けてくれる友のことにもまた思いが及んだ。ありがとう、友。さりげなくあたたかにふれあう、人と人。記念の一日もさりげなく過ぎて行った。ふとんにもぐるとすぐに眠ってしまった。31年目の古女房にありがとうを言うのをすっかり忘れていた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Oct 16, 2007 09:06:29 AM
[日々のカケラ] カテゴリの最新記事
|
|