カテゴリ:日々のカケラ
抜けるような秋晴れの空を見上げながら、「仕事なんかしている場合じゃない」と、自然大好きな誰かがどこかで言っている。まったくの同感だ。いつも暇なカメラマンが、この素晴らしい季節になって少しだけ忙しくなっている。天に神さまがいるなら、何をお考えですか、と聞きたくもなる。 昨日の午前中は、信用金庫のカレンダーの撮影だった。「最高のお天気ですね」とすれ違った行員もニッコリするほどの撮影日和。「そうですね」と微笑みを返しておいたが、気持ちはこんな町中ではなく山に飛んで行った。名古屋からわざわざ呼んだモデル事務所の女の子は小学校2年生。去年起用されて、銀行から大いに気に入られたらしい。青空の下で、ますます活発になった女の子と遊ぶようにして撮った。ぼくの仕事は遊びのようなもんだ。なんて、他のスタッフにはないしょだけど。 午後からは、念願の山へ。加賀の鞍掛山(477m)に登った。白山しか知らないぼくだが、この程度の高さなら朝飯前だと思っていたら、とんでもなかった。ほとんど直登している感じだ。少し歩いては一息ついて、水を含んだ。あぁ、でも最高。これも仕事なんだから。加賀市の秋を撮る仕事だ。見渡しても、どこにもそれらしい風景には出会わなかったけれど、身も心も十分に喜んでいた。 「すぐそこに獅子岩というのがあって、絶景ですよ。白山もよく見えるし」と、頂上で出会った人が教えてくれた。さっそく向った。これだな。空と山並みに向って、獅子岩が突き出していた。ほとんど見通しの利かないコースを歩いていたから、うれしくなった。うれしくなって、細長い岩の上を慎重に探索して居場所を定めた。もちろん横になるためだ。こんな贅沢、ほかにないだろう。仕事とか遊びとかいう範疇じゃくくれない。これは、この世に生きているという、幸せだ。空と山に抱かれて、小1時間ほども眠ってしまった。 目が覚めると、目の前をトンボがひらひらとチョウチョみたいに飛んでいた。お日様を浴びて、光ってもいる。記憶なんて残ってはいないけど、まるで天国みたいだ、と思った。カラスがギシギシと潤滑油が切れたような音を立てながら近づき、頭上の松に止まった。あいつら、いつも力の限り飛んでるみたいで、タカのような優雅さがないよな。カァカァ、と2羽して鳴いた。大きなお世話だ、とでも言っているのか。カラスが鳴くから帰ることにするか。本当は、向こうの富士写ヶ岳のシルエットが見事だろうなと、きれいになりそうな夕焼けをここで見たいとも思ったが、あの急斜面を暗がりで下りるほどの勇気を持ち合わせてはいなかった。終日仕事だった秋の一日。天に神さまがいるなら、もうなにも言いません、と感謝して、獅子岩を後にした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Oct 25, 2007 11:00:39 PM
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