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Nov 26, 2007
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カテゴリ:日々のカケラ


   

 冬の前の青空にさそわれて、山を歩いてきた。身体の中で、山、山と声がする。山が恋しいんだろうか。登山家でもないのにと、自分でおかしくなる。

 旧白峰村からの白山はすぐ間近に見えるせいか、神々しさが一段と増して感じられる。昇ったばかりのお日さまが里山の朝もやを黄金色に染めている。その朝もやを背景に杉の木立が真っ黒なシルエットをつくり、それと対比して透明なほど真っ白な御前ケ峰が浮かび上がっていた。

 もちろん写真は撮ったが、こんな風景に出会ったときは撮るよりも、まずは感動だ。途中ですれ違ったあのカメラマンは、今ごろどこにいるだろう。美しいシーンを見ているだろうか、などと珍しくそんなことが気になった。見事なまでにすべてがそろった美しい瞬間に出会いながら、出会っていることは決して当たり前じゃないんだと、自然に手を合わせてしまう。


96FT3182.jpg


 登り口へと続く県道はすでに閉じていた。冬山を登るつわものたちは、ここから10キロ、20キロと雪道を歩くのか。何日かけて登るんだろう。ぼくのこの生涯ではもうあきらめるしかなさそうな冬の白山だなと、少し残念な気もする。行く先を変えて、先日登ったばかりの富士写ケ岳に向かった。標高は940mほどしかないが、富士山を思わせる形が美しい。加賀市役所の撮影をきっかけに白山の周りの山々を歩く面白さを覚えたぼくの、お気に入りのひとつになりそうだ。今年はもうひとつ紅葉が冴えなかったブナたちはいまごろどんなだろうと、それが楽しみだった。

 いきなりの急勾配がぬかるんで歩きにくい。ゆっくり登るしかなったが、このところ朝の散歩が滞っていたせいか息が切れる。それでもまだ、山だ、山だの声に包まれて、身体が喜んでいるような気がした。

 2時間ほども経ってようやくブナ林に入った。すっかり葉っぱを落として、みんな裸ん坊。まっすぐなやつ、少しねじ曲がったやつ。お日さまのスポットライトを浴びて林立している姿はまるでダンスをしているようににぎやかだ。風がその間をすり抜けて、ぼくの身体をも抜けていった。インドで風を感じてからというもの、ずっと風になりたいと思っていた。もうあきらめてすっかり忘れていたのに、いつの間にか風になっていたんだ。誰にも悟られない静かな喜びがわいてきた。

 帰りは登りよりずっと大変だった。雪を見かけてうれしかったのはほんの一瞬。なにしろ滑る。3回も転んだ。1度はまるでスローモーションで、カメラをかばうように身体をひねっている自分を感じながら転げ落ちた。おかげであちこち今でも痛い。でもこの痛みをなぜか身体は大いに喜んで満足しているようだ。相変わらず山、山の声に包まれて。まったく切りがないやつだ。




 















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Last updated  Nov 26, 2007 06:04:41 AM
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