kazesanの年賀状
写真愛好家からはほとんど見向きもされないぼくの写真でも、気に入って大切にしてくれる人が何人かいる。100人くらいだろうか。それとも少し多めに、200人くらいかな。2005年の国勢調査によると、日本には127,767,994人が住んでいる。その中の、100人だ。広い世間でぼくの写真に出会い感じてくれるなんて、ほんとうに希少価値の高い、心の仲間たちとでも呼びたくなる人たちだ。 そんな仲間のひとりに、藤波宏子さんがいる。藤波さんは金沢国際デザイン研究所の事務局をまとめている。何年か前、その学校で写真を学びたいデザイナーの卵たち数人を相手に写真のクラスを担当させてもらったのがご縁だ。 非常勤講師を安請け合いしてしまったぼくは、半年間の経験をして、教えるなんて柄じゃないことを悟った。翌年の契約時にその気持ちを伝えて辞退しようとしたが、返って来た藤波さんの言葉に思わずほろりとしてしまったのを覚えている。「教えるプロならたくさんいます。でも私が求めているのは、情熱を持って写真と学生に向き合ってくれる人です」。それでまた安請け合いをしてしまった。まったく懲りない男だ。 学生たちとの日々は、それでも実に楽しかった。相変わらず教えることが浮かばないので、いっしょに外へ出て、よく撮った。話し合うことと言ったら、写真に関するものは少なくて、ぼくでも実践できる、今を楽しむ自分でいようよ、というようなことばかりだった。卒業後、希望のデザインではなく、写真の世界に進んだ子もいて、それでいいのか、と思いながらも少なからずうれしかったものだ。 藤波さんはクラスが閉鎖になったその後も、ぼくの写真を大切に感じてくれている。写真が中心のブログならうってつけのサービスがありますよ、などと細やかなアドバイスもくれる。「いつかkazesanの写真を使って、商品化しましょうよ」というのが、ふたりの間の合言葉のようにもなって行った。 それが今度、実現してしまった。藤波さんが営むデザインショップ・ファンタジスタの2008年オリジナル年賀状に、kazesanシリーズが誕生した。 清らかなイメージの写真をビジネスに使おうとしている私なんだと、藤波さんは何度か心の内を話してくれたことがある。まっすぐで正直な方だなと、ときどきまっすぐでないぼくは感じている。ビジネスに利益は必要だろうが、そればかりでなく、たとえば売買の場なら売り手と買い手が喜びを交換し合うというつながりもあるかもしれない。撮るときの喜び、カードにする喜び、それを買って投函する喜び、受け取る喜び。そうなれば、喜びだらけだ。などと藤波さんは、とりあえず考えたりしているかもしれない。喜び屋さんなんて、そんな店ならぼくも出してみたいもんだ。