「被験者たち」
――オオカミとイヌに区別がついたのだって 言葉ができてからだ それまでは どちらも 毛むくじゃらの目の鋭い4本足に過ぎなかったのだからさ 「そうね、私、 空と海の色が 同じ“青”だなんて信じられない たとえば、空がアオなら 海はマオ そのほうが ずっと納得いく気がするの」―― 君は泣いた そして笑った ある時は 襟の大きく開いた服にペンダントをつけ 鎖骨の横にできた紫のあざを わざと目立たせたりもした ある奴は笑いながらこう言った 男女の問題は当事者にしか解決できないからね、 また別の奴は神妙な顔で言った 彼女を救わなければ、 皆勝手なことを言う 君の目の色が 本当に意味することを 物憂げな髪の毛先が 切に求めるものを 読み取ることができるのは 僕だけだと自負していた 「本ってのはね、読むことこそが大事なのよ」 そう言う君から借りた文庫本は “解説”のページがびりびりと破られていた 僕は 君の嫌いな学者になろうとしている けれど、 君には これからも泳ぎ続けてほしい 誰にも論じられることなく アオとマオの狭間で‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐「信号」というテーマを与えられたので、それにあわせて書いたものです。お久しぶりの創作です。