【龍馬伝】第十九回
わしはおまんが羨ましいぜよ。わしはもう、何をすればいいか解らなくなったぜよ。以蔵は羨ましそうに龍馬に語った。脱藩の罪を許されたと聞いた龍馬は、それでもやりたい事があるから土佐には戻らないと以蔵に言う。龍馬は、もう武市の元にも戻れないと言う以蔵におのれの生き方をすればいい。と、慰めた。武市を裏切って朝廷に直に働きかけた平井収二郎は、藩に黙って朝廷に取り入ったと言う罪で追われる身となった。時代の風向きの変化を容堂は読んでいた。攘夷派がおしまいだと見た容堂は、勤王党を弾圧し始めた。収二郎は、その手始めだった。龍馬は収二郎を匿い、武市を呼んだ。飼い犬に手を噛まれるとはこの事ぜよ。おまんはわしを裏切った。収二郎と以蔵に会った武市は怒りをぶつけた。もう人斬りはいやじゃ!攘夷のためと思っても、もういやじゃ!と言う以蔵に、武市は、そんな事は解っている。でも、攘夷のためには仕方ないと言う。わしはただ自分の力でやってみたかっただけじゃ。わしの力でも藩を変え、国を変える事ができると思うてしもうたがじゃ。泣いて許しを乞う収二郎を武市は土佐に送り返し、以蔵はもう仲間ではない、と解放した。もうすぐ攘夷が決行される。わしが正しかった事が証明されるがじゃ。武市は容堂からの出陣命令をひたすら待った。しかし、武市の矢のような催促に容堂は目もくれず。そして五月十日。長州藩はアメリカ商船を攻撃した。攘夷を決行したのは、長州藩のみ。幕府の朝廷への約束は反故にされたのだった。五月十日は攘夷の夢が叶う日じゃった。だが夢が潰れる日になってしもうた。誰もいない土佐藩邸で、武市は龍馬に語る。異国の船に大筒を撃った長州はあっさりとやられてしもうた。もし日本中の船が大筒を撃っておれば、この国は無くなってしもうていたかも知れんがです。武市は、収二郎が土佐で捕まった事を龍馬に話し、自分の周りには誰もいない。人徳がなかったからだ、と笑う。そんな事はないぜよ。攘夷が実行されんかったがは武市さんのせいじゃないき。色んな人間がおって、色んな思惑があるがです。一緒に海軍をやりましょう。そして、本当の攘夷を実行するがです。それは出来ん。わしは土佐に帰らなくてはならん。収二郎を放っておく事はできんがぜよ。わしが頼んだら、大殿さまも解ってくれる。大殿さまは武市さが思うてるお人とは違います。あの人は、武市さんを嫌うておられるがです。容堂公は全部快く思うておられんかったがです。これは、まっことがです。武市さん。目を覚ましてつかあさい。土佐に戻ったら、武市は容堂に投獄されてしまう。龍馬はそう言って止めたが、武市は聞く耳を持たなかった。どうして大殿さまがわしを嫌う。大殿さまを支えちょった、吉田東洋さまを殺したがです。そして・・・土佐勤王党は下士の集まりだったがじゃ。武市は目を剥いた。大殿さまを信じるな言うことは、わしの人生全てを否定する事じゃ。殿様を疑ごうたら、それはもう侍じゃないがぜよ。龍馬は武市に何も言う事はできなかった。ただ、土佐に行く事を止めるしかなかった。龍馬。色々あったが、わしは、おまんの事を嫌うた事はないぜよ。幼なじみとは有り難いもんじゃのう。ほんまに日本が独立を守れるんじゃったら、わしはおまんの海軍に加わってもええ。それまで達者での。武市は笑っていた。時は、あの頃に戻ったようだった。 収二郎は投獄された。吉田東洋を殺した罪で。もちろん、平井収二郎は吉田東洋暗殺には関わっていない。しかし、たぶん容堂にとってはそんな事はどうでも良かったのだろう。武市も、その手下も、つまりは土佐勤王党は全て敵。龍馬のストレートな表現通り。容堂は土佐勤王党が「嫌い」だった。生意気な下士の集まりだったから。そんな殿様だと知らずに。。。いや、知っていながら、かも知れない。それでも、武市は容堂のために働いていると言う気持ちを捨てる事はできなかった。殿様のため。藩のため。国のため。そう言いながら、あまりにも大殿から離れすぎた所にいた武市。容堂にとって、それは思いこみの勝手な忠義であり、下士の忠義など虫けらほどにしか思っていなかったのだろう。以蔵も京で捕えられる。勤王党の終わりが近付いている。ここに来て、憑き物が落ちたような武市のすがすがしい表情に泣けてしまう。。。虫けらほどの物は権力に踏みにじられる。必死に生きていても、どんなに志があっても。 龍馬伝(1) 龍馬伝 NHK大河 龍馬伝 前編 坂本龍馬その偽りと真実