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テーマ:洋楽(3392)
カテゴリ:Just Chitchat
Cellophane / Ashley Slater's Big Lounge 東京の春は早く、今日は桜が開いたのそうだ。空はすっかり淡いピンクを帯びて、ビル群の間を歩いていてもどことなく、桃色の岩彩を滲ませた和紙のような雰囲気を醸し出す。 空を見上げて、道端の草花に目を留めて、様々な印象を意識できるのはとても幸せなことだ。 仕事を無期限で休むことに決めてから、本当にささやかなことに心が向いて、それが日々、水や食物以上の栄養になってくれていると感じる。 音楽も、いつも以上に心に浸透しては身体中を巡るようである。 2週間程前に、知人から発売前のミュージックCDを何枚かお見舞いにと頂いた。 その中に、Ashley Slater(Ashley Slater's Big Lounge)の、確か日本では明日発売のアルバムがあった。彼はトロンボーニストで、以前はFreak Powerというライト・ファンクグループで活動していたが、99年だったか、グループ解散後にソロへ転向、ジャケットもないまま手渡されたこのCD'Cellophane'はその初アルバムである。 Freak Powerはもう10年以上前にちょっと好きで、でも活動拠点はヨーロッパでアメリカではイギリスからの輸入盤がなかなか手に入らず、カナダやイングランドの友人にわざわざ送ってもらって聴いていたのだが、アメリカよりも日本での評価が高いのだろうか、手に入りやすいようだ。 今回はラッキーなことにこうして発売前のまだウォームなものをじっくり聴くことができ、懐かしいヴォイスに思わず病み上がりの喉をバーボンで焦がすことになってしまった。 Freak Powerは最初のアルバム'Turn On, Tune In, Cop Out'が全英2位を獲得するほどに売れたのだが2枚目は精彩を欠き、結局その後は注目されるようなことがなかったように思う。バンドがスプリットした後数々のミュージシャンとの活動を経て現在のプロデューサーSteve Arguellesと出会い、ソロとして今回のアルバム発売を迎える。 彼のミュージシャンとしての存在や音楽性などに関しては、恐らくNOを出す人も少なくないはずだけど(あまりこういったことを語り尽くすのは好きではなく・・・)素直にこれは、とても楽しい。 日曜の午後、部屋中におもちゃを散らかし一つ一つ手にとって遊んでみる、というような、軽快な気分で1曲1曲を聴かれる。でも、深夜に一人ペリグリーノなど傍らに置いて聴くのも、たまらなく良い。 アルバム・タイトルになっている「セロフェイン」は勿論、どれもとても好きだけど、9曲目の'Needed You'などは、ショート・ストーリィでも観るような、スムースで少し切ない美しい曲だ。 彼がこのアルバムをこれまでの彼の人生の、また音楽活動の集大成として紹介するその真意は、彼の両親も子供も同じように楽しめる音楽。その言葉の通り、本当に彼を、彼の作るものを深く知ろうとすることなど不要で、場所も時も選ばない、誰の耳にもプレッシャー・フリーの良い1枚であると思った。 決して常に栄光に輝いて来たとは言えなかった彼のこれまでの経緯と、そこから辿り着いた先で優しい心まで刻まれた1枚のCDが生まれたことを、私は、私自身の今と重ねて見ている。毎日を駆け抜けるように過ごし不意にぶつかった重たい扉をやっとの思いで開いたら、目の前にはどこまでも広がる大きな海が、私を待ってくれていた。 彼のこのアルバムに対する愛情を、今の自分が嫌いでないというナルシズムにはにかみながら私は、とても勇敢だと思う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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