DJ Kennedy/life is damn groovy

　




音楽とパパ・ジョンズがあれば喧嘩は起きない。これ、友人マーシャの言葉。
グローバルな意味合いだとか壮大な人生観だとか、そんなものを持ち合わせて
言っているのではなく、単に恋人同士の合言葉である。


マーシャとパーシィは知り合って随分になるが、お互い結婚の意志がありながら
今の状態でずっと幸せにやってきたせいか、「かたち」を変えることに少々臆病に
なっている様子。周囲も諦めムードだった。

近所のピッツァリア、パパ・ジョンズはオーダーからデリバリィまでがとても速い。
アメリカにおいては「迅速・丁寧」という言葉などどこを探せど見つかりはしないが、
ここはたいてい、最低限30分以内に届くし、扱いの粗雑な配達員にも今のところ
会ったことがない。


ディナーにとマーシャがいつもの「ハワイアン」（ハムやパイナップルがのったもの）を
オーダーすると、パーシィが彼女の肩をつかむ。

「なんで？なんで俺に聞かないの？俺はデラックス・スープリームが食べたいのに」
「何も言わなかったじゃない、最初に言ってよ。自分で電話すればよかったじゃない」
「分かってると思うじゃないか」
「それは私に気を遣って欲しいとか、そういうこと？」
「あのさ、一度言いたいと思ってたんだけど」

から始まり、2分後にはお互いの良くないところをぶつけ合う泥仕合の様相を呈する。
そしてマーシャの投げやりな一言が決定打となってしまう。

「ああ、本当に良かったわよね、結婚してなくて。いつでも好きな時に別れられる」
「何？別れるつもりでいたの？」
「だってこんなことで何百回喧嘩した？くだらないわ。相性が悪いのよ」
「そう、分かった。じゃあもうお互い努力はやめよう」
「何よ努力って。あなた私と居るのに努力してたって言うの？」
「じゃなきゃここまで一緒になんていないだろ、いられないだろ」

ここまでの長い年月を共に過ごして来られた理由を、彼等は全く考えてない。

「分かったわ、だったらこの場でもう終わりにしましょうよ」
「俺が出てくよ、荷物はあとで取りに来る」

ピンポーン。
今将にパーシィが出て行こうとしたところへ、さっきオーダーしたピッツァが届く。

「こんなに大きなパイ、ひとりで食べろっていうの？ちゃんと片付けてってよ」


　　　


パイの直径は50センチを超えている。

仕方なく部屋に戻るパーシィ。テーブルの真ん中にはデンと横たわるパイ。

「どこから食べる？」
「私はこの、パイナップルの多いとこ」
「じゃ俺はこの反対側から」

二人黙ってパイにかぶりつく。ただひたすらかぶりつく。1枚を食べて2枚めに手を出す。
そこでふたりはふと気付く。こんな大きなパイを間に置いて、ただ黙々と食べ続けること
ほど滑稽で情けない姿はない。そして虚しく響く二人の「むしゃむしゃ」という音。

彼等は目を合わせ、溜息を漏らす。「ばからしい」「うん」「それにしても美味い」「そうね」

もともと別れる気などないくせして意地を張り、つまらない喧嘩をするのはその関係が
長過ぎるからだ。そう結論付けて、彼等はその夜結婚の約束をした。


ピッツァは世界を、いや壊れかけの恋を救うありがた～いジャンクフード。後日、
彼等の婚約パーティに駆けつけると、同じ大きさのパイが20枚、所狭しと並んでいた。
ゲストは皆、見るだけでも胸焼けをもよおし「このパイでフリスビー大会やらない？」などと、
婚約し立てで幸せの絶頂にいるパーティ主催者をハナからバカにした発言が飛び出した。

すると本気で怒り狂うパーシィ＆マーシャ。すっかりファイト・モードのゲスト達。

やがて、二人を結び付けたパイがフード・ファイトの武器になるのだから、パイの威力も
疑わしいものである。


今夜も春のドライブにぴったりのセレクションを、おいしいピッツァでも食べながら。


(Click and enjoy the music videos!)




にほんブログ村
Thank you so much for all your support!