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DJ Kennedy/life is damn groovy

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March 1, 2010
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テーマ:洋楽(3359)
カテゴリ:Soul Saturday



  Gratitude .jpg



           DJK Soul Saturday Extra Extra.jpg



警察署に着くと、時間が気になった。そう言えば、捉えられた犯人は1本だけ電話を
許される。私も同じような扱いを受けるのだろうか。いや私には何の関係もないのだから
そんな失礼な話あるわけがない。

「すみません、電話をしたい人がいるんですが」
「それは誰?」
「友達です」
「電話は1本だよ」

ええ?私は犯人でも犯人の女でもないのに?
ここで本当なら、私は父に電話をすべきなのであろうが、とにかく8時にはリーアンの
パーティが始まるのだ。今夜のゲストは音楽関係者ばかりだから、私は絶対行きたいのだ。

「でも何で友達なの?」
ブラウンに聞かれて「今夜はパーティ」などとこの状況下で言えるはずがない。きっと
悪い植物を乾かしたものでも楽しむ集まりなのだろうと、ありもしないことでまた疑われる
のは分かっている。しかし待てよ。ここで嘘をつくと、後が厄介になる。

「今夜、パーティの約束が」
「その話も聞かせてもらった方がいいのかな?」
それは勿論話しますとも、何の後ろめたいところもないのですから。けれどもやはり私は
疑われているのだと分かり、さすがにブラウンを目の前にしてもぶすっとしていたはずだ。


結局、私には何をどんなに聴き出そうがあの男との接点など得られるはずもなく、しかし
私の聴取?が終わったら10時を過ぎていた。自分の置かれた状況に怖気づくどころか
逆に大切な夜を台無しにされた無念を一言ぶつけなければ気が済まなかったが、一市民
として捜査に協力する義務もあり、不本意ながら思い留まった。

「今日は残念だったね、せっかくの約束」
ブラウンの笑顔は美しかったが、初めて見た時の感動は既に薄れていた。

「どこまで行くの?」 
「ブロンクス」
「これから?ひとりで?」
「そうだけど」
廊下を歩きながらそんな話をしていると、急に緊張が解けて疲れてきた。もうパーティも
ブラウンもどうでもよくなりそうだった、が。

「だったら送ってくよ、ひとりは危ない」

ずんと沈んだ私の心にミラーボールが回った、いや光が差した。
確かに、当時のブロンクスは女性が夜ひとりで歩くなど有り得ない世界で、もう行くのを
諦め始めていたところだったのに、そういう話なら、やはりパーティは断って、どこかで
コーヒーでも、ディナーでも、と職務中の警官を相手に気分が華やいだりした。とにかく
話をしてみなければ。好きになるのはそれからなのだ。


         5-29-04 Oshimas 027.jpg


ミッドタウンの交番からブロンクスのリーアンのアパートメントまではそう時間はかからないが
リーアンのパーティの話や夕方買ったレコードの話など意外に盛り上がって、特に彼と私の
音楽の趣味が合うところに、思い上がりにありがちな「運命」を感じてしまった。
ポリスの車でもちょっとデイト気分を味わえて楽しかった。

目的地近くになり、夢のような(ある意味悪夢)時間の終わりを知って虚ろっていると、

「今度また、どこかで話をしない?」

こんなに短期間にこの展開は、やはり運命なのではなかろうか。私の答えは勿論Yesだ。
と、後方から大勢の人間が騒ぐような声が聞こえて、彼は車を道端につけて私の方に
顔を向け、後ろを注意深く伺った。至近距離に彼を感じて私はじっとしていたが、その時。
右手を私のシートにかけてハンドルに置いた左の薬指に、きらりと輝くウェディングバンドを
見つけてしまったのだ。

不思議なことにこの瞬間、今の今まで高まっていた思いがシューッと音を立ててしぼんだ。
こんなにハンサムで勇敢な「運命の人」のお相手は、どんな女性なのだろう。私は急に
つまらない思いで、彼を「ふつうのおまわりさん」と思おうとした。決定的になった失恋の
どん底に自ら落ちないよう必死になった。。同時に、彼が家に帰るのを待っている人がいると
いうのに何故、しかも仕事中に小娘をつかまえてデイトの約束などしようと思うのか。
だんだんと、彼を尊敬できなくなっていくのも切なかった。


騒ぎは酔っ払った集団のただのお祭り騒ぎで、そこから2分でリーアンのアパートメントに
到着した。

「連絡先を教えてくれる?」 そうブラウンに言われて私は何と答えたら良いか分からず
咄嗟に「じゃあ明日、交番に行きます」などと答えてしまった。ウソはいけないけれど、
私はもう彼には会わなかった。



リーアンの部屋は大いに盛り上がっていた。
けれど、私はもう踊る体力も今夜のことを告白する気力も残っておらず、テーブルに残った
サンドウィッチやスナック、そして本当はアツアツを食べるはずだったのにすっかり冷え切って
置き去りにされたようなピッツァをただただ頬張った。このままおなかがいっぱいになったら
眠ってしまいたかった。

けれど、今夜はとことんついていなかった。会ったこともないリーアンのゲスト達に
犯人呼ばわりされ、ポリスの車の中はどうだったとか、取調べ中にトイレに行きたくなったら
どうするのかとか、あとからあとから質問攻めに遭った。

そしてしばらくすると、リーアンがミックスしたテープのマーヴィン・ゲイが流れ始め、
「どろぼう、踊ろうよ」「踊ろう、犯人」モテているのかバカにされているのか、私はもみくちゃに
されながらリーアンのリビングルームでふらふらになった。そして彼等は私を囲み、
こんな風に替え歌した。


♪マ~ガマ~ガ~~(mugger=強盗)
♪バムラバムラバ~ムラ~~(bum rap=濡れ衣)


大好きだった"What's Going On"も、この夜を境に暫くの間は自分から聴くことをしなくなった。
それもこれも、彼等のせい、よりもこんな思いを私にさせたブラウンのせい、よりも何よりも、
事の発端であるあの犯人のせいだ。今度会ったら絶対に一言言ってやる、と思ったけれど、
実際には顔も見ていないし、考えてみたらあの男、強盗犯のくせに、私にきちんと謝っていた。
あんな優しさがあるのだから、悪いことなんてしなければ良かったのに。


これをどう表現すれば良いのか戸惑うが、その犯人は、殺人は犯していなかった。
角のレンタル・ビデオ屋に押し入って現金を強奪したという話だった。ここまで知って、何故
ちっとも恐ろしくならないのかが不思議だったが、このことは結局家族には話さなかった。


年端もゆかぬ乙女(?)の大切な大切なLove@First Sightが、あんな風に笑い飛ばされ
しかもそのままのかたちでこうして残ってしまって良いのだろうか。美しく輝く一目惚れの
思い出を持つ女性達に伺いたいものである、どんな場面で、どんな恋になったのか。
きっと誰も、私には共感していただけないに違いない、残念ながら。



おわり


(追記) 軽薄な話で恐縮なのだが、実は私は、この話をここで残せて良かったと思っている。
     どんな思い出も、かたちを残せるというのは幸運なような気がするのだ。


Labelle.jpg GilScottHeron.jpg AnnPebbles.jpg TheGapBand.jpg



♪マ~ガマ~ガ~~
♪バムラバムラバ~ムラ~~

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Last updated  March 2, 2010 12:57:27 AM
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