160289 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

DJ Kennedy/life is damn groovy

DJ Kennedy/life is damn groovy

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

Category

Recent Posts

Favorite Blog

Free Space


AX

March 16, 2010
XML
テーマ:Love Songs(54)
カテゴリ:Love Songs


   DJK Spring 6.jpg



カフェは、普段とは違う空気に包まれていた、は大袈裟だけれど、多くの客が彼等の
テーブルを幾重にも囲み、二人のリバーシ一騎打ちをビア片手に見守っていた。

驚いたのは、二人のアクションが実に敏速なことだった。コツを持っていたのだろうが、
それにしても、相手の先の先まで考えたような目の動きで自分のコマを塗り潰した。

私はふと、二人の顔を交互に見た。
じっと頭を抱え目を細めてテーブルを見つめるジャック。目の前にいるのがガールフレンド
とは思えない。一方、恋人相手に闘志をムキ出しにするキャシィも肩肘をつき、もう一方の
手で長い髪をかき分けては百年の恋も冷めようという顔相でジャックを睨む。

どうやらジャックには後がない。焦りが彼の目尻をけいれんさせる。

そして最終戦はテーブル一面を使った10X10 の超特大版で繰り広げられ、ジャックが見事、
全マスの5分の1も埋められずに惨敗を帰した。

観客達は二人の真剣勝負に拍手喝采を送った。最初はまるで痴話喧嘩のような彼等の
バトルも、最後は頭脳と頭脳のぶつかり合い、ESPNのビリヤード選手権でも観るような
緊張感も(少しは)あった。

今、彼等の表情には激しいゲームを戦い抜いた爽やかな達成感が滲んでおり、
拍手に気付くと笑顔で抱き合いお互いの健闘を讃えあった。その姿にまた拍手が沸いた。

勝ったキャシィにさっきまでの闘志は消えて穏やかな笑顔が戻り、ジャックもまた自らの
敗北を温かい拍手で払拭したように笑っていた。が。

「約束だからね」 「え?」 「約束したでしょ」 「何?」 「当たり前でしょ」


    OliveTreeCafeBW.jpg


後から来た客が誰かに「何の話?」 誰かが「彼は負けたからパークで歌うらしいよ」
そう伝えると事の一部始終を今初めて知った数人の客から小さな笑いが起こった。

「さ、行こ」
キャシィに促されてジャックは席を立つと、すごすごと会計を済ませて外に出た。
店長やウェイトレスがジャックの肩をぽんとたたき、Good Luck,と言いながら
含みを持たせて笑っていた。

私の恋人は失礼にもキャシィに「僕等も着いてっていいかな」 
キャシィは快く「勿論、誰でも」


ワシントン・スクウェアは広い公園で、日頃から大道芸人やミュージシャンが自由に
練習をしたり、その腕を披露したりと賑わっている。ここでは当たり前の光景である。
けれど暗くて寒いパークで芸を見せる人などいないわけで、考えてみれば、私も
この時間にここにいることなど、これまでになかった。

ジャックは「ちくしょう」「ちくしょう」を連発し、何故かジャケットの下のスウェットと
シャツを脱ぎ捨て、再びジャケットの袖に腕を通した。

何で脱ぐの?一体何を歌う気だろう。キャシィは少し離れて「みんな待ってるよー」と
けしかける。

じとーっとキャシィを見るジャック、大きく息を吸い込むと、「OK、じゃいくよ」
そして、彼が始めたのはまさかの、これ。


                  BillyIdol.jpg
                  (Click and enjoy THE REAL BILLY IDOL!)


こういう時ニューヨーカーはよく分かっている、というよりはっきり言ってイジワルである。
ここでジャックの為に手拍子でも打ってあげれば、彼だって悪ノリのひとつもできようと
いうものなのだろうが、皆揃って腕を組み、ニヤニヤしながら突っ立って見ているだけだ。
伴奏もない上に、お題目自体も原因のひとつであるかも知れなかった。

ところが状況は一変する。
ジャック実は、普段から歌い込んでいたのではないか。学生の間では、Billy Idolのマネ
というところで笑いの種になっていただろうに。それともここにきて突然一皮むけたのか、
全てをかなぐり捨てて開き直ったのか、TVで観るBilly Idolが彼に乗り移ったかのような
動きを見せ始める。

観客は徐々に増え、ひとりの老婦人が彼が脱ぎ捨てたスウェットの上に1ドル札を置いて
通り過ぎて行った。キャシィが"Thank you!"

私の説明に反して途中からは手拍子が公園中に響き渡り、やがてジャックは燃え尽きた。


    Copy of Jackcct.jpg


彼のビリー・アイドルは、顔こそ全く違えど表情や動きがそっくり、見事であった。
最後はちょっと感動すらしてしまった。20歳くらいの男の子が、知らない人達に囲まれて
いくら約束の罰ゲームであったとしても、ここまで魅せるとは。これもしかして、彼の
誠実な性格からくるのではないか、と随分かいかぶって考えもした。

感動ついでに私も彼のスウェットの上に1ドルを置いて、「どうもありがとう」と言って
別れた。私達の後にも、さっきのご婦人につられてコインを投げていく人が何人も続いた。

「よかった、ライヴを諦めてもちっとも惜しくない」私は心からそう思った。



帰り、地下鉄の中で彼が言うのだ。

「あいつホントに学生だと思う?」
「違と思うの?」
「素人でさ、あそこまでできる?役者の卵か何かじゃないかな」

そう言われれば、最初のうちははにかみも見られたものの、30秒も過ぎればあれだけの
人もコインも集めるあのステージング。普通素人のすることであれば、行き交う人がそう
足を止めることもない。けれどほんの数分のうちにざっと20人は輪に加わっていた。
本当だ、あれは、プロの業だ。ははーん、なるほど。

ということは、私達はまんまとハマッてしまったか。にくいぞジャック&キャシィ。



偶然あの店に居合わせたというだけで、こんなに楽しい夜を人々に与えられるのだから、
ジャックとキャシィには人を惹きつける才能があるのだろう。そして、もしも彼等が学生で
なかったとしたら、あんなおしゃれな自己表現方法を持つ彼等をとても好きだと思ったし、
そういった人達がまだまだ大勢いる、それからこういう楽しい憶測に溢れるニューヨークは、
やはり相当に上等な町だと言える。


(おわり)


今夜もDJ Kennedy&Co.の選んだ春のSoft Rockを。
Pilot.jpg Ace.jpg KoolnTheGang.jpg BloodSweatnTears.jpg



ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村
Thank you so much for all your support!

Gratitude 7.jpg








お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  March 17, 2010 02:37:16 AM
コメント(0) | コメントを書く
[Love Songs] カテゴリの最新記事



© Rakuten Group, Inc.
X