PK from The Legend

April 11, 2010

テーマ：Love Songs(54)

カテゴリ：Love Songs

人の意志などではどうにもコントロールできないことがこの星にはあるのだと言うことを
この時ほど感じたことはない。

セバスチャンの親友がニュー・メキシコ州サンタ・フェで結婚式を挙げることとなり、私達は
バケイションを取ってNYからやって来た。

空の美しい良い朝のセレモニィが無事に終わり、レセプションはホテルのお庭で行われた。
風が気持ち良く、幸せな二人にぴったりな陽気だとその場に居た人達は皆思ったはずだ。

新郎で夫の親友タイロンは私に気を遣って、私が時々仕事をする美術商も招いてくれていた。
広いお庭はバフェのセクション(お料理がとても美味しかった）、バー・セクション、そして
バンドの入ったダンスフロアが設けられ、穏やかな時間がその日の南風のように流れていった。

　　

パーティは日が暮れると室内に移り、夜遅くまで続いた。

そして新郎・新婦がハニムーンに向かう車の前。
笑顔いっぱいの二人のはずが、セバスチャンのヤツ、いきなりタイロンに駆け寄ってガッシと
抱き合うと、

「よくやったぞおまえ」「おお、ありがとな」「幸せにやれよ」「おお、おまえもな」

どうしてだかそんな「何も今でなくたって」な会話でおいおい泣き出しているのである。

まったく、一番大切な場面で新婦の一生の思い出を台無しにするセバスチャン。
周囲の高らかな笑いを誘って微妙に我が物顔でいるのも分からない。あとで、説教だ。

　　

翌朝、私達は西へ向かって走り出した。

彼は昨晩私にこっぴどく叱られながらも上機嫌でアースのLove Songsなんかを歌っている。
私はすっかり呆れ果て、でもそのうち彼のペースにはまりこんで、サンタ・フェの自然と
戯れながら、気がつけば一緒になって大声を張り上げていた。

周りには家もなければ車もろくに走っておらず、この広いニュー・メキシコを貸し切り状態で
カラオケしている気分なのだ。

　　

「あ、Mt. Fujiだ！」　「あ、ほんとだ！」

　　

「あ、またMt. Fujiだ！」　「あ、ほんとだ！」

ここは、平地が続いたかと思うと突然こうした大きな岩山が突出するように現れる。

360度、ぐるっと地平線を見渡せるこういった場所は、人をとても小さく見せる。そして少し、
何が起きているわけでも自然がこちらに語りかけているわけでもないのだけれど、それでも
確かに漠然と、「大地には適わないな」と思わせる力を横たえているのだった。

　　

この頃はまだ、最近日本でブームになっている「パワースポット」などという言葉は
まるで知らなかったし、実際そんな場所が存在すること自体想像もつかなかった。
第一、私はそういったことをまるで信用していないので（そのわりには空を見上げて
見えぬUFO相手に「チャネリングだ」とか言ってむちゃくちゃな歌を作ってみたりする）
今ここで、「ああ、適わない。私は小さな人間です」なんて思っているのは、ただただ
土地の広さ以外にはないと、愚かにもそう思っていた。

（つづく）

セバスチャンのアカペラ・コレクション