Just Tell Me Why

April 14, 2010

テーマ：Love Songs(54)

カテゴリ：Love Songs

ここ何日か、あることで胸がざわついている。

先週NYの友人から、ある人が私と連絡を取りたいと言っているがどうしよう、
という電話があった。ある人とは、私の学生時代の恋人トレイシィだ。

別れたのは、私がアパートメントの隣室に住む人に恋したからだった。

共通の知人から、トレイは今政府機関の技術者としてヨーロッパと東南アジアを
行ったり来たりしているのだと聞いたことがあるが、それ以上は別段知りたいとも
思わなかったし、例えば知ったところで会いたいくらいに懐かしく思うこともない。
例え思い出したとしても、次の朝、新しい1日が始まればそのまま知らないうちに
忘れてしまっている。実際、この二十数年間彼を思い出したことは殆どなかった。

　

夢を見たのは、風の強い夜だったと記憶している。あまりの強風に窓も部屋も
少し揺れていた。そんな風に思っていたのだから、なかなか寝付けなかったの
かも知れない。だからこんな夢を見たのかも。

雨が降っていて、景色全体がブルーグレイに見える。私は、どこか知らない駅に
居るのだが、どうやらそこに暮らしているらしい。駅前を通りかかって横断歩道を
渡る為に信号待ちをしていると、ストリートの向こう側に、トレイが白い傘を差して
立っているようだ。でも私はまだ気付かない。分かっているくせに気付いていない。
これが夢の、矛盾が通ってしまうところ。

信号が青に変わり、横断歩道を渡りきって角を曲がったところで、傘を差す右手を
誰かが掴む、何も言わずに。その人を見ると私は胸を衝かれて立ち止まり、何か
言おうと思うのに言うべき言葉が見つからない。こんにちは、なのか元気だった？
と言うのか、それとも「離して」。でもきっと言わない。少しずつ彼の顔を確かめて、
心のどこかで懐かしんでいた。

彼は少し微笑んでいる。視線の先、白い箱を持っている。彼がようやく口を開く。

「これをね、全部返そうと思って」　「私の持ち物？」　「僕等の持ち物だ」

「もういいよ、処分して」　私はこう答えるつもりだったはず。が言葉を発しようと
する私を制止するように、「要らないって言うなら、返さない。でも君も帰さない」
これは、私達が最後に話をした時の、彼の言葉だ。

「どうして今更またそんなことを言うの？」と思ったところで目が覚めた。

翌日の夜も、やはり彼は街角に傘を差して立っていた。今度は、昨晩よりも少し
リラックスしていたように思う。長いこと立ち話をして、「うちに寄って行く？」と
私が尋ねると、「2時までしかないからいいや」と答えて、そこで夢は終わった。

　

気になって、彼の名前を検索エンジンに掛けてみた。すると、彼が大学院時代に
発表した論文のいくつかは出て来るのだが、現在どこで何をしているかまでには
辿り着けなかった。友人に尋ねることもできるのに結局しなかった。夫への気兼も
あり、また何か、現在の彼を知ることで不安に囚われてしまうような気配を無意識
のうちに察して、避けているような気もしていたから。

別れた時は、私は既に新しい恋をしていて寂しいという思いもなかったけれど、今
あの頃を思い出して、身勝手にも切ない思いに駆られている。

生きていれば、きっとこんな日もあるのだろうけど、夢の中で起こることも出会う人も
目覚めている間の世界に引っ張り出すことができないだけ、こうしていつまでも気に掛かる。

彼と話すべきであったのだろうか。何を私に伝えたかったのだろう。
この疑問と後悔に、私は暫く悩むことになりそうだ。

Beautiful S/Js that make me wanna cry.