160152 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

DJ Kennedy/life is damn groovy

DJ Kennedy/life is damn groovy

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

Category

Recent Posts

Favorite Blog

Free Space


AX

April 26, 2010
XML
カテゴリ:Friday-Night Boom


 89.jpg




「あなたたち、ここまでです」


とろんとした目でピットボスを見上げる社長。楯突く気力などもう彼にはない。愛人は
彼を揺すって「何か言ってやったら?」と徐に眉間のしわを突きつける。彼は彼女の為に
用意したであろうゴージャスな夜を台無しにした(に違いない)。彼女はぷいっと立ち上がり
彼を置いてフロアの外へとひとり立ち去った。


テーブル上の緊張が解かれ、冷ややかな微笑が浮かぶ。「ああ、やっと解放された」と。
さんざん社長に遣られっ放しの20代の男性2人、一人黙ってベットを続けてきた中年の
ご婦人、豊かに暮らしている様子が笑みに映る壮年夫婦。セキュリティが4人呼ばれると
社長は既にひとりで歩けず、2人の大男に支えられて消えて行った。


ヒーローとなったリーさんは周囲には目もくれず近くでオーダーを取る別のウェイトレスを呼び、
氷だけが残ったカップを彼女のトレイに乗せて「同じものを」と告げる。誰一人席を立たない。
ピットボス3人がかりで、社長のぶちまけたシャンペインの掃除に当たる。その間ゲームは
中断。数分後、再開されると同時にリーさんのビアが届けられた。



 3.jpg



リーさんの猛反撃が始まった。ビアを1杯飲めば2倍、2杯飲めば4倍。彼はその法則を
崩すことなく、1杯空けてはまた1杯、リズミカルにオーダーを続けた。彼が最初からこの
魔法を持っていたに違いないと思っていたのは、私だけではなかったはずだ。ビアを飲む
回数を増やす為に1回分の量を押さえていたのは誰の目にも明らかなのだから。そして
有り得ない法則が今、リーさんの脳内を飛び出してテーブルの上を漂い始めた。


「待って」一番右に座っている20代半ばの男の子が、「彼と同じものをちょうだい」と言う。
続いてリーさんの隣でゲームを続けてきたご婦人も、リーさんに向かって「私も、同じものを
頼んでもいい?」と尋ねる。とてもポライトな女性だ。リーさんは手のひらをすっと少し上げ
「どうぞ、勿論」と合図した。つい、「私もいいですか?」と言ってしまった。リーさんは初めて
笑顔を見せ、"Sure, sure"(どうぞどうぞ)と言った。そうして結局、テーブルについている
全員が、リーさんスタイルのビアをオーダーすることになった。



 5.JPG



氷の入ったビアを、リーさんを除く全員が初めて飲んだ。純粋に、とても美味しくて誰もが
「帰ったらまた飲もう」と喜んでいた。そして。


将にそれは、「リーさんのラッキー・ビア」だった。
彼は殆どチップを取られることなく快進撃を続け、つられるように、全員が少しずつチップを
積み上げていった。ビアも後から後から出て、私も気がつけば5杯飲んでいた。


そして遂に、ディーラーのハンドルするチップが底を突いた。長いことブラック・ジャックを
経験してきたが、そうあることではない。ピットボスが奥で電話をかけると、少し経って
シルバー・メタリックのボックスを持ったセキュリティが現れ、テーブルにボックスを乗せると
中から大量の黒、オレンジ、グリーンのチップを取り出した。さぁリーさん、どこまで行くか。



 2.jpg



ところが、カジノではこのような、ちょっとした間やディーラーの交代によって場の雰囲気が
がらりと変わる。それを嫌ってテーブルを変わるプレイヤーも少なくない。 


リーさんは、積み上げたグリーンのチップを両手でディーラーに差し出すと、「カラー」と言う。
するとディーラーはリーさんのチップを小分けにして自分の前に置くと「カラー・イン」と叫ぶ。


カラーとはこの場合、「終了、清算」の意味である。清算と言ってもその場で換金できる
訳ではなく、細かいチップを大きなチップに変えてまとめてもらうことを言う。テーブル上で
リーさんの、黒とグリーンのチップを数えるディーラー。横でピットボスが監視している。

リーさんはぴったり9000ドルのところでゲームを降りた。4000ドル負けていたところから
計算すると、1万3千ドル(ざっと130万円)を盛り返したことになる。


"All blacks?" (全部ブラックチップで?)
"No, all oranges."  (いや、全部オレンジで)


オレンジは1000ドルチップだ。リーさんはディーラーが置いたオレンジのチップ8枚を手に
席を立った。明日のお粥はふかひれ入りだ、リーさん。


"Good luck, everyone."  (みんな、グッドラック)


ハードボイルドなリーさんを、皆手を休めて"You, too."(あなたも)、"Thank you!"と見送る。
リーさん、さらば。またいつか。




 4.jpg




リーさんの引き際は見事だった。やはり、私達は皆リーさんの勝負強さに引っ張られて
いたのだろう。案の定、彼の抜けたテーブルはあっという間に社長健在の時代に戻った。
ディーラーの手元から殆どのチップを奪い取り、ピットボスの指令で新しいチップのボックスが
セットされたばかりだと言うのに、逆にディーラーの手元がチップで溢れる事態となった。



オレンジ・ブームを巻き起こしたテーブル。私の手の中にも一時は7枚のオレンジが
握られていたのだが、リーさんなき後、さっさと止めれば良いものを30分で4枚になり、
それまで使っていたブラックのチップもいつしか大半がグリーン(1枚$25)になった。


そう言えば、リーさんが去った途端、誰もあのビアを飲まなくなっていた。



深夜のカジノには不思議な「気」が充満している。それを「気」と取るのか「思い過ごし」と
取るのかは人それぞれなのだろうが、リーさんのような、ディーラーの強さを吸い込む
力を持つ人が、12時間も遊んでいれば必ずと言って良いほど出現する。もしかすると、
カジノの神様は実は、擦り切れてケバケバのキャップをかぶった中国人で、氷の入った
あのビアは、カジノの神様がこっそり私達に教えてくれた必勝法だったのかも知れない。
とそんなことを、夜通し遊んでぼやけた頭がしばらく考えていた。




Casino Entertainment Kings 最終回 Huey Lewis & The News
30年前も今も変わらぬ最高のステージに、ついついリピートしてしまう。
DoYouBelieveinLove.jpg IfThisIsit.jpg ThePowerofLove.jpg JacobsLadder.jpg
(Click and enjoy the music videos!)

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村
Thank you so much for all your support!











お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  April 27, 2010 02:27:18 AM
コメント(2) | コメントを書く
[Friday-Night Boom] カテゴリの最新記事



© Rakuten Group, Inc.
X