|
カテゴリ:Just Chitchat
メトロエリアは初春の雪になった。 私は雪がとても好き。でも今日の雪は特別だった。今朝目が覚めた時に見た、静かに舞い落ちる白い雪に安心感を覚えたのは、何だかこのまま疲れ切った私の上にも降り積もって、跡形もなく消し去ってくれるような気がしたからだ。そんなの有り得ないと分かっていても、どうにもお願いせずにはいられず、不可能なその願いを叶えてくれるような錯覚を与えてくれたあの雪に、ただ甘えていたかった。やはり普段より空想(あるいは妄想)が激しくなっている。 NYにいる時、私は冬の殆どを郊外の家で過ごす。雪の量がマンハッタンとは比較にならないのだ。雪を見て、雪遊びをして過ごすなら郊外の家。トップの小さな写真をご覧頂いても雪の降り方がお分かりになるかと思う。写真は、私の窓から撮ったものだ。一方、マンハッタンでは、ゲレンデでは使ったことのないスキーを履く。街の中やパークを歩く為に。特に大雪の後のパークを歩くのは醍醐味がある、と言うよりトライアスロンの強化合宿といった辛さもあったのを思い出す。尤も、水っぽい春の雪では用を足さなかったが。 東京では、2日以上雪が降り続くことも積もっていることもないので、街でスキーを履くこともないし、雪遊びをしている大人など見たことがないけれど、この町には素敵なカフェがたくさんあるので雪を見ながらゆっくりとお茶を飲む時間をとても気に入っている。そんな時は、本を読んでいるか、本を読むふりをしてあれこれ考えるのだ。今夜Debbieに電話しよう、週末は映画に行こう、あの人は今頃何をしているのかしら、どこかへ行きたいな・・・。 やはりどこかへ行きたい。そして私は目的地をどこにしようか考える為だけに週末温泉へ行くことにした。去年行きたいと思っていたお気に入りの温泉宿に空室を確認して、すぐに決めた。が、どこまで「運」というやつは私を嘲笑うのか。 私の車を父が仕事で使うと言い出した。仕事と言われては、今それが全く手につかない娘としては「いやです」とも言えず、雪でも降っていたら困るなと思いながら、普段は近場以外走らせない、更にはどう見ても温泉街にはtoo funkyなBMWを出すしかなかった。 ここ15年間BMWに乗っているが(父が乗る車は日本車)、何故近場だけ?数年前東北地方へ行った時、スピードが出るのを良いことにhighwayを猛烈に飛ばしspeeding ticketを切られたことがあり、それ以来何故だか懲りて遠乗りしないことにしている。そう言えば、ストックホルムに住む友人が常々「雪の中を走るならVOLVOに限る」と言ってずっとVOLVOに乗っているが、こんなことなら私もVOLVOを買えばよかった、そう思った。コペンハーゲンにいる友人も同じことを言っていた。 雪の残っている温泉宿はとてもきれいで、物音と言えば、宿を囲むように覆い茂る木々の葉が風に揺れる音くらいだ。その静けさと澄んだ空気はまるで罪深い心を浄化してくれるようだった。ここに来て良かった。が、そう思ったのは最初の5分で、独りになって窓際の椅子に腰を下ろすと、急に寂しさが込み上げて来た。「一緒に行こうよ」と言ってくれた家族や友人に「仕事を終わらせなくちゃ」などと白々しい言い訳をして一人で来たものの、実際部屋の真ん中にぽつんと佇むと、怖くなるほどに後悔した。父は、まだ私が死にに行くと勘違いして最後までこの温泉行きを反対していた。一人娘の父親とは、こんなもの? 夜、耳を切るように冷たい空気の中で庭にある露天風呂に浸かっていると、「星の王子様」の本の表紙を思い出した。小さな星の上にぽつんと立つ王子。私もあの王子と似たような顔をしてるんだろうなと思った。そして、今のこの情けない己と、こうなるまでの経緯をぼんやりと思い返し、こうして独りでいる私を余所に世界はいつもと何も変わらず無情に動いているのかと思ったら、それまでは泣く気にもなれなかったのが、初めて涙が溢れて頬を伝い落ちた。お風呂の中で泣くというのはあまりにかっこ悪いものだと思った。 温泉は相変わらずとても良かったけれど、結局気持ちも変わらないし、食欲も出ないし(何とここ2週間で4kg減っていた)、次はどの国へ行くかも決められなかった。それどころか帰りの車では、もう1か所、どこか温泉に行こうかと思った。 今日の雪は、何の為に降ったのだろう。冬の終わりを告げる為?もしそうなら、私の悲しい思い出も持ち去ってくれたら良かったのに。残念ながら、まだここにある。 追記。温泉に行ってひとつ良いことがあった。私はこの約10日間、全く音楽を聴いていなかった。そんな心の余裕がなくなっていたのだろうが、お風呂に入って考え事をしていた時に思ったのだ。鼻歌が出てこない。そして、そう言えばNYに帰る飛行機の中でも、郊外の家でも、東京に帰って来る時も、私は少しも音楽に触れていなかった。少し驚いて、温泉から帰る車の中で、自然と気持ちが向いたOldiesを久し振りに聴いたら、心が少し潤った。ただ、泣きはしなかったが、正直とても悲しくなってしまった。 (Click and enjoy the music.) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
March 8, 2011 03:58:42 AM
コメント(0) | コメントを書く |