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カテゴリ:気まぐれ業務日誌
火種はまだ、燻っているが、
お互いそれには触れようとはしなかった。触れられなかった。 それでも、一応これを『和解』と呼んでもいいのだろうか。 たぶん、お互いに今のままじゃ居心地が悪いことは解かっていたから。 きっと、相手のためではなく自分のためにしたことなんだ。 それでも、お互い受け入れたのだ。 ※7月1日(水)と7月2日(木)の日記の関連話です。 おいらが、金曜の夜勤担当である非常勤のD先生が急遽お休みしたことを知ったのは、 バドミントンの帰りだった。 おいら:「えー?非常勤のD先生、お休みなの?」 外来看護師さん:「そうなの。急に電話があって。お家の事情らしくって。」 おいら:「じゃあ今夜の夜勤って誰がやってるんだぁ?」 外来看護師さん:「急遽のピンチヒッター引き受けるドクターっていったら、一人しかいないわ。」 おいら:「・・・・セクスィー先生?」 外来看護師さん:「そう。」 おいら:「き、気の毒に。おいら今日は受付当番だったから知らなかったよー。」 受付当番は、事務所の中のことに疎い場合がある。 患者さんの会計を担当するから、そっちにかかりきりになるので仕方ないんだよね。 セクスィー先生は今週木曜に外部の講義があり、先週からその資料作りに四苦八苦していた。 相当追い込まれていたようだが、講義も終わり、やっと一息つけるはずだったのに。 入院病棟があるのだから、ドクターが不在になるわけにはいかない。 誰かが休む場合は誰かが代わりをしなければいけないとはいえ、突然だと厳しいよねぇ。。。 だから、おいらは今日の朝、出勤途中で珍しくコンビニに寄った。 おかげでいつもよりは若干遅い到着。 前日は受付当番だったから、事務所のデスクは処理していない昨日のカルテが山積みだった。 それを処理し始めてふと気づいた。 今日は入院料の請求書一括発行日なのに、まだ入院レセプトを確認してないドクターがいる! おいらたしか、担当患者さんで病名漏れの患者さんがあり、その病名が担当医から貰えないと、 入院料を算定しなおさなければならないのだった。 おいら:「昨日ってセクスィー先生の入院と外来のレセは戻ってきました?」 産休明け先輩:「ううん、たぶんまだだと思う。」 おいら:「じゃぁ急いで医局に回収に行ってきますね。」 ほんとは水曜日の外来に降りる際、セクスィー先生が医局からレセプトが入ったトレーを抱えて いたのを知っていた。 診察の合間に外来診察室で外来分のレセプト点検をするつもりだったのだろう。 が、まさしくその日の午前の患者さんが途切れた時、 レセプト点検にはうってつけの時間帯だったのに、 診察室で先生とおいらは、患者さんの処方の件で言い争いをしてしまった。 きっとその後は、レセプト点検なんてする気にはならなかったはずだ。 その日の夕方、入院レセプトを各ドクターに届けに医局へ行った際は、 せっかち先生と伊達めがね先生しかいなかった。 が、パーテーションで仕切られた図書室からは、パソコンのタイピングの音がしていた。 たぶん、セクスィー先生が翌日の講義の資料を作っていたのだろう。 セクスィー先生の分は医局のデスクにそっと置いて、おいらは図書室へ顔を出すことはしなかった。 一昨日の講義が終わるまでは、レセに手をつけられなかったのだろうが、 昨日は急遽とはいえ夜勤で病院に居たわけだし、レセを見る時間はあったんではないか!? きっと、医局の事務所返却ボックスに置いてあるに違いない。 すでに外来が始まっていたので、夜勤帯からの引継ぎも済んでいるはず。 案外、もう帰ってるかもしれない・・・・。 でも、セクスィー先生のことだから、なんとなくいや~な予感もする。。。。 医局に行くと、一番最初に目があったのが不機嫌顔のセクスィー先生だった。 あー、めちゃくちゃ低血圧な顔だよ。。。 しかも・・・、レセ、ひょっとしてやりかけ!? 電子カルテでなにやら仕事中のセクスィー先生、向かいには今日は病棟担当の副院長。 他に検査の先生もまだ医局に居た。 ・・・早く退散するが勝ち。。。。 と言いたいところだが、レセが。。。。 おいら:「セクスィー先生、ひょっとしてレセって。。。」 セクスィー先生:「ああ、まだ途中。」 おいら:「(や、やはりな、、、)終わった分は貰ってってもいい?」 セクスィー先生:「ああ、外来分が半分やってないんだ。」 おいら:「じゃ、入院分と外来の終わった分は回収します。」 まだ終わってなかっただなんて、昨夜の夜勤、なんかあったのかもなぁ。。。 それでもさすがにやりきってから帰る気だろうから、一時間くらい時間を置いてまた来るか。 事務所に戻り、セクスィー先生分のレセ点検の最終確認をし、 担当患者さんの病名も無事つけてくれてあったので、急いで医事コンピュータに反映させた。 そうこうしていると、一時間はあっという間に過ぎた。 今日は入院料の発行日で医事課は全員出勤のため、事務所は満員御礼。 しかも、パソコンを使われていたので、おいらはセクスィー先生の残りのレセを回収しがてら 図書室のパソコンを使うつもりで、再度医局へ向かった。 医局と図書室は、パーテーションされただけのもともとは同じ部屋だ。 図書室へ直接入るドアからでも、パーテーションの隙間から医局へすんなり入ることが出来る。 隙間は一箇所だけ、医局の奥の壁側だ。 つまり、図書室のドアから入れば、医局の中の人間は奥のソファまで来て覗き込まなければ、 誰が図書室に居るかは解からない。 だからおいらは、図書室のドアから入り、すぐ図書室のパソコンを起動させた。 医局にも誰かの気配があったが、誰なのか、一人なのか複数なのかも解からなかった。 とにかく先に仕事を済ませたかったので、USBフラッシュメモリを差し込んで書類を プリントし始めた。 医局でも、プリンタが作動しているようだった。 かすかに漏れ聞こえる鼻をすする音で、医局の中にいるのがセクスィー先生だと解かったが、 反面おいらは、声を出さずに息を潜めて作業をしていた。 作業も終わり、パソコンを終了し出したとき、医局の誰かが動く気配があった。 あ、誰か奥のソファのほうに向かってくる。 セクスィー先生:「おい、これ終わったから。」 パーテーションの隙間から迷いもなくすっとセクスィー先生の左手が伸びた。 レセプトの束が入ったボックストレーを差し出された。 おいら:「ああ、ありがとうございました。」 ・・・・どうして、おいらだって解かったんだろう。。。。 おいら、声を出してはいないのに。。。。 先生だって、今ここに来るまでは一度も図書室を覗きにきてはいないのに。。。 おいら:「先生まだ帰ってなかったんだ。」 セクスィー先生:「ああ、(プリント作業が)終わるまではなぁ。」 おいら:「もうちょっと居る?」 セクスィー先生:「なんだよ?」 質問には答えず、おいらはレセプトを置いたまま一旦図書室を出た。 再度戻ったときにも、図書室のドアから入り、パーテーションの隙間から医局の中へ。 そこから入ると、すぐ目の前にはセクスィー先生のデスクがあるからだ。 デスクといってもそこで仕事するスペースはなく、ただの物置場になっているため、 先生は電子カルテのある中央のテーブル付近で、髭剃り中だった。 おいら:「先生、これ、置いとくよー。」 セクスィー先生:「え?なんだって?」 山積みのデスクに唯一存在するスペースに置いたのは、数本のドリンク剤の入ったコンビニ袋。 今朝仕事に来る途中で調達したものだった。 シェーバー片手にデスク付近にやって来たセクスィー先生。 おいら:「ノ○ジュースのお礼。気持ちだけ。」 セクスィー先生:「あ、悪いな。」 正直、ずっと苦しかったのだ。 まさか知らなかったとはいえ、7千円以上する高級健康ジュースを欲しがったこと。 貰ったその日に、業務上でやりあってしまったこと。 次の日の木曜日、病棟で、退院患者のことで声を掛けてきた先生の態度がいつもと違ったこと。 金曜日、業務では一切関わることはなかったが、昼休憩が一緒の時間になってしまった際、 一切目を合わせられなかったこと。 なのに、先生は食べ終わっても、いつもより長い時間食堂に居たこと。 さっき、図書室へレセプトを持ってきてくれたときの態度のぎこちなかったこと。 この息苦しさは、もう限界だった。 だから、ノ○ジュースのお礼をすることが、和解のつもりだった。 ただ、ノ○ジュースの話をした。 医局のセクスィー先生のデスクの前で、二人で話した。 対極の窓側に、検査の先生が居たのは知っていたが、二人だけで話をしてた。 今までどおりの、おいらがボケて、先生が呆れる。 ちょっぴり小馬鹿にするように先生がおいらに突っ込み、それにおいらが反論する。 今までどおりの会話の空気。 身振り手振りで話すおいらに、デスクに寄りかかり手を組んで話す先生。 今までどおりの距離感。 でも、おいらはあの日のことを謝らなかった。謝れなかった。 先生も、謝らなかった。 喧嘩したあのときのことには触れなかった。触れられなかった。 先生も、触れようとはしなかった。 それでも、これで良かったんだと思う。 先生にも、これがおいらの『和解』の意思だと、解かったはずだから。 ただ、おいらの心に開いた穴のなかで、燻り始めた小さな火種は消えることはなかった。 それを消すことは出来なかった。 この職場の事務所へ向けられたおいらの心の中の火。。。。 おいらのキャリア、そしておいらの医事としての誇りと正義に反するこの職場の体質に、 おいらはいつまで、耐えられるのだろうか。。。。 おいら、いつまで、この職場に居ることが出来るのだろうかなぁ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009年07月26日 11時48分03秒
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