|
カテゴリ:気まぐれ業務日誌
『人の心がそんなに簡単に分かるわけない。』
以前、非常勤のI先生がメールに書いてきた言葉。 ボクもそう思う。 ほんと、人の心は理解しがたいものだ。 そしてボクは、そのせいで結構大事だったかもしれないものを失ったみたいだ。 それは、ボクのせいなんだろう。 理解していたつもりだったのに、全然理解してあげられなかったのだ。 『I先生、貴方を理解してあげられなくて、ごめん。』 インフルから復活した一昨日、日直当番だったボクは 朝からため息を連発していた。 ワケは、仕事終わりに医局へ行こうと決めていたからだ。 それは、この日の当直医がI先生だったからだ。 三週間前・・・、 『別の病院から誘われて悩んでいる。』というメールをI先生から貰ったボクは、 てっきりI先生が病院を去るものだと思い込み、 そしててっきり背中を押して欲しいのか、と思ってメールした。と、 『辞めるつもりはない。深読みしすぎ。』と返されて、 だったら何を悩んでいるんだ?とムカついたボクは、 辛辣な言葉とともに、『ワケが分からない!』と突き放すようなメールをしてしまった。 それから、I先生からメールが来なくなった。 ボクも一切メールをしなかった。 病院内ですれ違っても、挨拶しかしなかった。 とはいえ、もともとボクとI先生は、 院内で、そうそう会話しているわけではなかった。 ボクとI先生がメル友なことは、病院内では誰も知らない秘密だった。 当然、飲み友なことも、飯友なことも、誰にも言ったことはなかった。 昨年秋からI先生がバドサークルに参加するようになったことが始まりなのだが、 それは、I先生の置かれた状況が変化したからだった。 初めてI先生がバドに参加した日の帰り、飯に誘われお供のつもりで付き合った。 後日、メール交換したら、バドと関係ない日にお誘いがあった。 まあそれなりに面白かったしと、誘いにのって飲みに行ったら、 これがなかなか有意義だった。 妙に懐っこいのか、ボクにそんなことまで話してよいの?ってくらい、 自身のことも話す人だった。 そしてある日、突然泣き言メールが来た。 ボクが以前返したメールの言葉を引用されて、 『アナタの目には、僕はそういうふうに見えるのですね。 ホントの僕は、寂しさと虚しさに耐えられずどうかしそうなのに。』 ボクとI先生の間には、歴史が無い。 ボクとI先生の間には、信頼たる基盤も無いはずなのに、 どうして、病院外で逢ったのはまだたった2回しかないボクに、 こんな自身の心情を吐露してきたんだろう。 ただ、I先生が孤独な事情は知っていたから、 無視することも出来ず、 『どうにかなってもよいんじゃない?自身が招いたことだもの。 それでも寂しさと虚しさでどうしようもなくなったのなら、いつでもメールをして。 ボクはいつでもメールを返す。 もっともこれは、弱ってるヤツに手を差し伸べる自分の自己満だったりするけど。』 もし、ボクとI先生の間に歴史があり、 もし、ボクとI先生の間に確固たる信頼関係があったなら、 ボクは決してこんなメールを返さなかった。 ボクは泣き言をいうI先生を突き放しただろう。 『自身のまいたタネだ。独りで耐えぬけ。でも、ボクはいつもそばに居て見てるから。』 こう言うことが、ボクの思うほんとの愛情だった。 でも、ボクは出来なかった。 ボクはまだ、I先生を信用しきれていなかったから。 I先生の強さを、量れなかったから。 だから、中途半端で上っ面なやさしい言葉を、『自己満足』という言葉で誤魔化した。 が、I先生からは、『いろいろとありがとう。』と返事があった。 『時間が解決してくれるということは分かっている。 そして、病院内では医師である顔を崩すことは絶対しない。だから大丈夫です。』 『じゃボクの役は、I先生の演技にまったく気づかない、鈍感な医事課員だね。』 ボクとI先生との約束だった。 でも、一昨日ボクは、その約束を破った。 ボクは日直終わりで、I先生は日当直医で、医局には誰もいなかったから、 破ってもさして問題は無かったからだけど。 ボクは、はっきりさせたかったのだ。 『病院を辞めるかどうか、副院長に相談しようと思う。』 と言ってから3週間経ったが、ボクにその答えをくれなかったのはどうしてか。 結局、どういう決断をしたのか。 ボクは訊きたかったのだ。 そして、ボクの役目は終わったのか? ボクはもう必要なくなったのか? I先生は、話してくれた。 ボクの質問に、答えてくれた。 副院長に相談したら、 『非常勤の今の状況よりは常勤で勤めるほうが良い。誘いにのるのもありだと思う。』 つまり、引き止められなかったこと。 でも、今春から確保できると思っていた非常勤医を確保出来ず、 I先生がまだここに居ても医師過剰ではないから、当面は残ることにしたこと。 ただ、非常勤という状況はとても危ういということ。 でも、I先生は非常勤という道を選んでいること。 それは、I先生がある種の爆弾を抱えて生きているということ。 研修医時代にも、以前勤めていた病院でもその爆弾を破裂させてしまい、 多大な迷惑を掛けてしまったこと。 『以前話さなかったっけ?』 と言われた。 確かそんな話を聞いた気がしたが、当時のボクはあんまり理解していなかった。 今回誘いがあった病院は、その当時の師匠にあたる人が副院長をしていて、 でも、その病院も問題がないわけではなく、 だから、然程魅力的というところではないということ。 うちの病院は、今春から常勤医が一人増える。 なのに病院の経営はかなりヤバイ状態だ。 経営において、一番の問題は人件費、ターゲットは医師の給与だ。 もう一人非常勤が増えた場合、どうなるか。 3週間前、I先生はそういう状況の渦中にいた。 でも、病院から条件を提示されることもなく、 宙ぶらりんでいた。 だったら、自ら引くこともありなんじゃないかと。 誘われているところもあるし。 でも、言い出せなかった。 ボクにくれたメールは、そういう意味だったらしい。 ボクは、I先生のことを、全然理解していなかった。 プライベートの悩みだけでなく、非常勤としての危うさを抱えるI先生の不安な心を、 ボクは、まったく理解出来ていなかった。 ボクとI先生は、一昨日メル友の関係を解消した。 『3週間メールくれなかったのは何故?』 と問うと、I先生はこう答えた。 『(心が)弱っている僕に、アナタの言葉は、きつかったから。』 『だったらボクの役目はもう終わりだね?』 I先生は答えなかったが、答えなかったことが答えなんだね。 I先生は、ボクに『優しさ』だけを求めていたのだろうか。 あの時ボクは、確かに初めてI先生に対しイラっとした。 だから、その気持ちを正直にメールに書いた。 確かに、辛辣ではあったけれど、でも、そのままを書いた。 それが、『きつかった』というのなら、ボクは、メル友ではいられない。 メル友でいるためには、I先生の望むボクにならなければならない。 それは、ボクの心を殺すことだから。 ボクは、I先生を責めなかった。 そう決めていたからだ。 でも、今になって思う。 例え責めることになったとしても、ボクの本音を言えば良かったって。 『I先生は、貴方にとって都合の良いボクだけを求めた。 そしてI先生を理解せず、I先生に答えられなかったボクを拒否したけれど、 だったらI先生、貴方はボクを理解しようとしてくれましたか?』 ただ、ボクは分かっている。 I先生が、この病院で唯一、本音を話せる相手がボクだったってことを。 どうしてだか分からないけれど、I先生が、ボクを信用してくれていたことを。 医師の仮面を外した顔を、ちゃんと見せてくれていたことを。 今ボクは、こんな唄を聴いている。 実は、昨日I先生のデスクの上にも、CD-Rを置いておいた。 口がすべって君を怒らせた でも間違ってないから謝りたくなかった 分かってる それが悪いこと それが僕の悪いとこ ・・・・ 誰もがみんな大事なものを抱きしめてる 人それぞれの価値観 幸せ 生き方がある 「他人の気持ちになって考えろ」といわれてはきたけど 想像を超えて 心は理解しがたいもの お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2011年02月14日 00時37分10秒
コメント(0) | コメントを書く |