才能
大好きな作品のひとつ『ちはやふる』。競技かるた(百人一首)マンガです。瑞沢高校かるた部キャプテン、綾瀬千早(主人公)のチームメイト、真島太一が最近気になってきました。競技かるたでは百枚のうち五十枚の、下の句が書いてある字札を半分ずつ、自陣と敵陣に分けて並べ、読手(どくしゅ。札を読む人)が上の句を読んだ瞬間に、下の句札を取り合います。自陣の札を取るとその札が一枚減り、敵陣の札を取ると自陣の札を一枚敵に送ることができます(送り札)。先に自陣の札をすべてなくしたほうが勝ち。正月に親戚と遊ぶ、のどかなかるたとは違い、例えば「ゆらのとを」の「ゆ」、「しのぶれど」の「し」の、どちらを読手が読もうとしているのかが、息を吸い込んだ瞬間分かってしまうような、超能力者みたいな人達(千早もそう)を相手に、「才能と戦う覚悟」を決めた太一。太一は、場に並んでいる字札はもちろん、空札を含め、すでに読まれた札、まだ読まれていない札を一試合ごと正確に暗記し、才能で攻めてくるエスパー的(かるた界では「感じがいい」と言うそうです)な人達に、ギリギリの勝負を挑んでいきます。勉強が得意で、努力しなくても成績は学年で一番の太一(おまけにイケメン)ですから、かるたの才能がないと自分に認めることは、とても勇気がいりました。それを認めたときに、勉強の才能を、かるたに活かす道が見えたのです。手技療法界にもエスパーはたくさんいます。もちろん、開眼するまでには人知れず、「こうなりたい!」と求め続けた時期があったはずですが。「先生、ここが辛いんですけど」と訴えるお客様に対して、体の中まで透かして見えたら、どんなに早く楽にさせてあげられることでしょう。でも普通、なかなかそうはいかず、服の上から背骨を触って、どうなっているかを検査しながら、見つけた歪みをひとつひとつ整えていく。そんなふうに地道に、三十年以上均整を続けてきた、ある先輩。すでにほとんど触診エスパーの域。それでも、研修会後の飲み会の席で「僕もいずれはひと目見ただけで、不調の原因を特定できるようになりたいと思っているんだ」と。とても勇気づけられます。たぶんみんな、本当はどんな才能も持っています。遺伝子がONかOFFになっているだけという説もありますよね。自分の好きなことの才能をONにするためのひとつの方法が、まず、自分には才能がないと認めることなのかもしれません。認めて初めて、スイッチのありかが分かる。いつかパチっとそのスイッチを入れることができたら、自分だけじゃなく、チームも敵も観客も、全部照らすことができるはず。おっと、最新巻(21巻)買ってこなければ。表紙は太一と千早の師匠、原田先生。今回もまた燃える展開になりそうです。『ちはやふる(21) 』(Be・Loveコミックス) 末次 由紀 (著)