アイロンがけ
高校3年間、寮生活でした。食事は食堂にお世話になっていましたが、掃除・洗濯・靴磨き他、身の回りのことは、すべて自分でやります。そんな環境の中、アイロンがけが得意になりました。自衛隊の学校だったので、主に制服や戦闘服のアイロンがけです。同じ宿舎住まいの先輩方からもよく頼まれました。だんだん増えてくると面倒くさくもなりますが、「上手いな!」と、ほめられるのはうれしいもの。もっと上手くかけるには? と、ついあれこれ工夫してさらに腕が上がり、引き受ける量がさらに増えることに。均整も同じ。お客様が喜んでくれるとうれしくて、もっと上手く整えるにはどうすればいいか? と工夫し続ける毎日です。アイロンがけは、寮の当直室へアイロンを借りにいくところから始まります。そこにあるのは、何年もみんなで使い回した、旧式のスチームアイロン。袖はこうして折り目を入れて、ボタン周りは襟をこうよけてから……と、戦闘服そのものをよく観察すれば、使うアイロンは旧式でも、仕上がりはスッキリ、バッチリ決まります。大事なのは、アイロンの型式よりも、服の構造を深く知ること。手技でいえば、新しい技を次から次へと覚えるよりも、体を深く知ること。昔は秘伝とさえいわれていた技でも、今ではウェブなどを通じて文献や動画etc. 手に入れようと思えばいくらでも手に入ります。まさに当直室に、最新型アイロンがずらっと並んでいる状態。各アイロンメーカーの営業担当者まで待機していて、「当社の超電磁スピン式が最高ですよっ」「いや、我社のムーンアタック方式こそっ」と、いたれりつくせりです。ネットで検索すれば済んでしまうアイロンの性能自慢ではなく、服そのものを知りつくし、アイロンをどう当てたらいいのか、角度は? 圧は? 温度は? と、惜しげもなく教えてくれる営業さんが、中にはきっといるはず。アイロンなら、親しくなった営業さんから、直接買って恩返しできます。手技は、信じたひとつの技を手にじっくりなじませていくと、新しいのを買わなくても、手の中でいつの間にか最新式にバージョンアップ。親しくなった手技の神様への、いちばんの恩返し。今日もまた少し、お返しできますように。