受け取る
身体均整師の仕事のひとつは、痛みをかたちに置き換えること。痛い左腰の、骨盤が開いている。前に出ている。後ろに引っ込んでいる。尾骨が左にキュッと曲がっている。そんなところを見つけては、どうしたら痛くないほうのかたちに近づくか考えます。直接その箇所をグイグイ、ポキポキするのではなく、視野を広げ、例えば尾骨の先が胃や肩甲骨を指し示していれば、そちらを整え、全体として均整になるようデザインします。「自分じゃどこが痛いのか分からないのに、先生はいつも『そこです〜っ』って言いたくなるところをちゃんと触ってくれるから、安心できます」整え方よりも、受け取り方。体がかたちで教えてくれているメッセージを受け取るだけでも、その人には治るための情報が、新たに流れ込みます。それは施術だけでなく、何科を受診すればいいのかのアドバイスであったり、帰り道、「そうだ、運動しよう」のひらめきであったり。20年、30年先輩の先生と一緒に勉強会に参加していると、モデルの同じところを触っても、かたちの受け取り方に、微妙なようで大きな差のあることが分かります。受け取っているものの量や質が違うのです。その差を埋めるにはどうしたらいいか?「なか卯」で、男子大学生グループを見かけました。先輩の一人が、たぶん1000円札を券売機に入れ、後ろにいた後輩の分もカツ丼を買ってあげたのでしょう。席に着いてから後輩が、自分の分をかたくなに払おうとして、押し問答。「いくらですか?」「いや、ここはいいよ」「いえいえ、払いますよ」「おまえにはこれからもがんばってもらわないといけないから」「じゃ、半分払いますよ」受け取る、与える、両方上手にできて、施術も日常もクルクル回り出すのだなと教えてもらいつつ。まだまだ修行中の自分と重なり、尾骨あたりがちょっとモゾモゾ。朝定食の残りをササッとかき込み、店を出たのでした。なか卯の近くをクルクル飛んでいたテントウムシ。