カテゴリ:エッセイ
吉本ばななの「ひな菊の人生」を読んだ。
彼女の本は久しぶりだった。 いいなぁ、と思った。 彼女の書く物語の中では、空気はいつも色や音や、記憶を持っていて、 静かにそっと主人公を包む。 それは、口ではうまく説明できないけれど、音楽のあるカフェの空間や、 古い空き家に入ったときの匂いや、友達の帰ったあとの寂しい空気、 そんなものだと思う。 そして彼女の物語にはいつでも生と死が同居している。 それは僕らにとっても当たり前のことなんだけれど、みんな見ないように して生きていて、その生きていることの奇跡に気づいていないだけ。。 それを思い出させてくれる。 そう。宇宙の中のたった一つのこの命が、生きているこの瞬間がどんなに すごいことなのか、を嫌でも感じずにいれなくなる。 本の中で、幼いひな菊が、一人で働いている母の帰りを待つ、こんなシーンがあった。 帰ってきた母が、たとえ本当はひと言も口をきけないほどに疲れ果てていても、 私を見ると少し嬉しそうになり、私の幼いエネルギーを受け取って活気付くのがわかった。 自分は邪魔な存在ではなく、役に立ち、必要だと思えるその瞬間のためなら、 夜更かししていることはなんでもなかった。 こういう言葉が僕はたまらなく好きだ。 生きてることって神秘なんだな、と思う。 そして、どうして彼女は、こんな風に人が心の奥底で求めている狂おしい何かを 文字にできるのだろう。。そう思う。 まるで火をつけたろうそくの炎が、最初は小さく、やがて大きくなるように、 僕も誰かの心にほんの小さな火を灯すことができたなら、と思う。 そうしたら、どんなに自分の人生をいとおしく思えるんだろう。 自分の命を、魂を愛せるのだろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[エッセイ] カテゴリの最新記事
|
|