テーマ:心のかたち、人のかたち(951)
カテゴリ:エッセイ
村上春樹「ノルウェイの森」を読んだのは、もうずっと昔10年以上前、ちょうど右も左もわからないままアメリカに留学をする時に持っていった本だった。
そして偶然にも少し前に買って手元にあった吉本ばななの「キッチン」がその旅に同居し、期せずして、今は自分の人生にとってかけがえのない本となっている2冊の本を、擦り切れるほど何度もアメリカの田舎町の小さな部屋で読むことになる。 この本に出てくる「ノルウェイの森」というビートルズの名曲を僕は知らなかった。この本が大好きになってから、CD屋で夢中になってこの曲を探し出して聞いてみたけれど、あまりに自分のイメージが大きかったのか、なんだか寂しくてあっさりした曲だな。。くらいにしか思わなかった。けれど、その曲を思い浮かべるだけで、なぜか曲の後ろに雨の降る音が聞こえる気がする。きっと小説のせいだと思うけれど、曲を思い浮かべると、空は灰色で、雨の音がいつまでもやまないまま、やがて曲のメロディーよりも雨音だけが耳に残るようになった。 この本も何冊も買っては友達にあげてしまって、今は手元にはない。 素敵なシーンや言葉がたくさんあったけれど、手元にない今思い出すのは、 その「ノルウェイの森」が飛行機の中のスピーカから聞こえてくる最初の場面と、 寮の部屋に一人で座って、目の前にある空間を半分に切って、それをまた切って、そして手のひらに乗るくらいまで小さくわけていって、そして手を伸ばしたけれど、光はいつも僕のてのすぐ先にあった。。 というところ。6畳一間の寮にいたころ、僕もそう思った。 暗い闇の中で伸ばした手は、一体何を掴もうとしているのだろう? この、今ここにない何かを掴まえようというこの狂おしい思いはどこからくるのだろう? まるで真っ暗な宇宙の中に浮かぶ小さな虫ケラのように、僕は身体をねじらせながら、掴めない未来を夢見ていた。 そしてこの小説の中での究極の問いかけは、 生きていくことは、どうして誰かを傷つけたり、何かに傷ついたりするんだろう? ということではないかな、そう思いました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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