テーマ:心のかたち、人のかたち(951)
カテゴリ:エッセイ
月曜日の夕方ににふと思い立って母に電話をしたら、おじさんがガンで入院しているという話を聞いた。。
そして、是非手紙を書いて欲しいという。いつから?と聞くともう2週間にもなるらしい。。症状はもう骨にまで転移が進んでいるらしい、との事で、いわゆる末期ガン。今いる病院というのも、あちこちからそういう患者さんが集まってくるような特別なところだそうだ。余命については、以前の病院では、約半年と言われたらしく、なんとか今の病院に移って、この2週間で体重が2kg増えたことを本人が喜んでいた。との話だった。 衝撃的な話だけれど、どうすることもできないまま、手紙を書くことにした。 月曜の夜のいつもの喫茶店の丸テーブルに座って、僕はノートを広げた。 久しく会っていない人に手紙を書くときは、まずその人のイメージが浮かばないとどうしても書けないので、ノートに向かったまま、しばし目を閉じた。 そして、その人の昔のイメージではなくて、今のそのおじさんの住む町へと心を旅立たせていく。。 額に折り曲げた人差し指と親指をそっと押し当てて、まるで魔女の宅急便のキキがホウキに乗って夜空に舞い上がるように、空から街を見下ろして、遠くおじさんのいる病院まで僕の心は飛んでいく。 そして、空想の中で、その病院に舞い降りて、おじさんの病室を僕はそっと訪ねる。その窓から入る風を感じ、窓から見える景色を感じ、おじさんが昼間ベッドの上からきっと見つめた空を思い浮かべながら、僕はおじさんの心へと入っていく。 それはまるで深い森の中で、雨上がりのこけやシダからゆっくりと湯気が立ち上がり静かな靄を形作っていくよう。。そして僕はその時浮かんできた言葉たちをノートに書き始めた。 窓からの風はじっとりと、深い命の重みをたたえた夏の空気を含んでいる事と思います。。 そして僕は2つの物語を書く。 一つは、どんな病気の時にも、迷うことなく、自分の生きる道を選ぶ、一本の杖を持ったお坊さんのお話。 もう一つは、坂本竜馬やたくさんの維新の志士たちが海を越え、日本に何かを伝えようとし、東奔西走する中で持っていた魂と、今も変わらない日本人の心とDNAについてのお話。 これらがおじさんを励ましてくれるかどうか、少なくとも嫌な気分にさせないかすら、僕にはわからない。ただ、心の耳を精一杯に澄ませて紡いだ言葉がおじさんに届けばいいな、そう願うのみ。 早く良くなりますように。。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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