カテゴリ:エッセイ
僕は空を飛ぶ夢を見る。
ある日僕は銛を打ち込まれた一匹のサメだった。 生への執着を身体中で表現しながら、血を流し、のた打ち回るサメ。 どれだけの血が流れても、意識が遠くなっても、身体中がしびれてきても そのサメは決して生を諦めようとはしない。 広大な海が血で染まり、やがて訪れた夕陽のオレンジに溶けていく。 船が壊れるほどの勢いにやがて銛をつなぐ麻紐を漁師は切り離す。 解き放たれ、たくさんの仲間のいる海の底へと帰っていくサメ。 けれど、戦いに終わりはなく、新たな傷はサメの身体と心から離れることはない。 強さとは何か、正義とは何か、なぜ生きるのか、 どこまでも続く海の中での点のような存在、その点が波を起こし、血を流し、 空に向けジャンプすること、涙を流すこと、叫ぶこと、傷つくこと、抱きしめること、 そのすべてが生であり、正義なのかもしれない。 ある日僕はその広大な海を見下ろしていた。 意識を失いそうなくらいの濃紺ののっぺりとした平面の上に 白い波がまるで千鳥模様のように綺麗にならんでいた。 いつかのサメが海面に一度だけ姿を見せ、その残虐で細い目で空を仰いだ。 雲が流れ、雨が降り、雷が鳴った。 大荒れの海の底で魚たちは息を潜め、嵐が過ぎるのを待っているのか。 漁師たちはうらめしそうに空を見上げながら、港に立ち尽くしているのか。 僕は早く戻りたかった。自由に空を飛んで、様さまな人たちの暮らしを 見ているよりも、目の前の困難や、出来事に一喜一憂していたかった。 右も左もわからずに何かにぶつかって、砕け散ったり、突き通ったり、 身体中を傷だらけにして、空をうらめしそうに眺めながら、 手の届かない力を望み、泣き崩れ、地を這い、けれどそこにある小さな花を 見つけては微笑み、笑い飛ばし、大声で叫んでいたい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Aug 12, 2007 01:37:37 PM
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