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きらめき星の世界

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2006.12.16
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カテゴリ:映画

冬なんですけどね。。
映画のお話。

 

「真夏の夜のジャズ」

 

1958年(日本では1959年)、米、カラー

映画の上映権が切れるらしく、日本では最終上映になるとのこと。

タイトルのとおりジャズの映画です。ジャズ好きの人はもちろん知っていると思いますが、単なる記録映画ではなくその当時のアメリカの雰囲気のようなものを伝えてくれ、ジャズファンならずともある程度年配の方なら知っている人が多いのではないでしょうか。

 

僕は、塩野七生さん(「ローマ人の物語」で有名)がエッセイの中で書いているのを読んで初めて知りました。 (「失われし時を求めて」)

なんと12回も映画館に足を運んだと・・。しかもクラシックの教育を受けていたのでジャズは全く知らなかったにも関わらず。30年前に自分を夢中にさせたものの正体は一体なんだったのか、感慨深げに語る彼女の文章の巧さもあるでしょうが、高校の頃に読んで以来ずっと心に引っかかっていて、見てもいないのに僕にとっても思い入れの深い映画だったわけです。

 

場所はアメリカロードアイランド州にある避暑地ニューポートで1958年に開催されたジャズ・フェスティバルを映したドキュメント映画です。

NewportMap.jpg

ニューヨークからも車で3時間で着く海辺の町で、アメリカズ・カップというヨット・レースも開催される所です。オープニング、そのヨット・ハーバーの波のゆらめきを背景にしてスウィング・ジャズの軽快な音が流れる。そしてそのゆらめきの中に映るNEWPORTの文字。洒落てます。

フェスティバルには総勢100人以上の出演者がいましたが、映像に映っているのは40人ほど。むしろ映像はと港の風景、疾走するヨット、泳いで遊ぶ子ども、ブランコ、観覧車、踊る人、そんなちょっとしたお祭り気分の町の様子をさりげなく映しています。
この映画の監督はバート・スターンという写真家なのですが、音楽と直接関係ない写真家という職業だったからこそ、こんな映像の作り方ができたのかなーと思います。

 

個々のミュージシャンについては大して知っているわけではないのであまり書けないんですが、それなりにジャズが好きな僕は音楽だけでも十分楽しめました。

 

セロニアス・モンクというジャズ・ピアニストの紹介が面白かった。。

「次に登場するプレイヤーは、非常に独創的な音楽のクリエーターです。彼は自分の音楽を生き、自分の音楽を考え、人生そのものが音楽という人物。彼は尊大なわけではないが、自分の音楽への批判は気にしません。彼が探求しているものは、西洋音楽にはない四分音です。ピアノの隣り合う2つのキーをたたき、その間にある音を"暗示"します。では、セロニアスモンクです。」

 

re.JPG

 

 

アニタ・オディの上品で粋な恰好。
ツバの広い白い羽根飾りの帽子に黒のドレスのアフタヌーンスタイル。
そして何よりも抜群のスウィング感。

 

437172279.gif

 

ロックン・ロールの先駆けチャック・ベリーの「スウィート・リル・シクスティーン」。
有名なビーチ・ボーイズの「サーフィンUSA」の元歌です。

 

ルイ・アームストロングも僕にとっては初めて生(?)で見たようなもんです。独特の存在感がありますね。まさに古い時代のアメリカという感じがする・・。

 

そしてもう一つとても印象に残った音楽。

チコ・ハミルトン・クインテットの練習風景が映し出された後、その中の一人が残ってバッハの「無伴奏チェロ組曲第1番」を弾き始めるのです。煙草に火をつけるためにいったん中断し、再び演奏を始める。煙草の煙がチェロに絡みつく。音楽も、映像も、何てかっこいいんでしょう。
この曲も前から誰の何なのかずーっと気になっていた曲なので、ようやく見つけたー。早速CD屋に行こうと思います。。

今までにも何度もリバイバル上映されてきたそうですが、最後にスクリーンでこの映画を観ることができたのは幸せでした。2006年の11月23日、この映画にも出演したアニタ・オディが87歳で亡くなりました。まさに、一つの時代が終わったんだなと感じる出来事です。

アメリカの黄金時代。

映像に映る人々の顔は誰もみな本当に幸せそうです。その後の苦悩をまだ知らない、束の間の幸福な時間が86分のフィルムの中に詰め込まれている、そんな作品です。今年初めてこの映画を観た僕と、その当時に生きた人々とでは、感じるところは全く違うと思いますが、公開以来の50年間この映画を鑑賞した様々な人が様々な思いを抱いてきたことでしょう。でも案外根っこのところでは映画から伝わってくるものは変わっていないんじゃないかとも思ったりします。

 

「失われし時を求めて」

「・・・  私がこの映画に魅了され、12回も映画館に通ったのは何故だろう。30年も昔に抱いた想いだ。今は思い返す術もない。だがもしかしたら、あの映画には真の意味での音楽が、それ聞いた人を幸福にする類の音楽があったからではないかと思う。

・・・ ・・・

 あの時代のアメリカは幸福だった。酔うのに、ジャズとジンジャエールとタバコだけで十分だった。麻薬もヴェトナムもエイズもまだなかった。ケネディが大統領に就任したのは、1961年ではなかったか。ヴェトナム戦争が始まったのは、1963年だろうか。
 
音楽は、健全な人々に健全な酔いを与え、夢見させ、幸せにしてくれるものでしかなかった。プロテストの手段では、全くなかったのだ。
 
プロテストすることによって、芸術の世界に棲む人々でさえ、なんと貧相に変貌してしまったことか。60年代、70年代と続く時代のアメリカ映画を支配する、コンプレックスに満ち満ちた混乱と一人よがりの情けなさ。細巻きの麻薬タバコを吸い会う人々の、手の指の異様なまでの細さ。
 
イミテーション・ジュエリーのチカチカしていた時代のアメリカが、今の私には限りなく懐かしい。そして音楽が、文字どおりの楽しい音であった時代が......。」

塩野七生 「人びとのかたち」 新潮社 所収)

 

jazz_on_a_summers_day.jpg

 

 

 






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Last updated  2006.12.25 19:31:20
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