鳥をめぐる話
うちの店の前に動かない鳥がいる、とランドセルを背負った男の子が入ってきました。小さな鳥です。グレーの体と黒い頭。手で体を包み込んでも、羽を広げることもなく、逃げる様子もありません。うちで引き取ることになるのか、と思ったら、男の子は自分が持っていく、と言います。布に包んであげて、男の子は鳥を両手で包み帰っていきました。ご近所の方が来て、自分が世話してもよかった、と言います。その方は弱った捨て犬や捨て猫などばかり拾っては看病し、世話をしている方なのです。もう鳥は明日まで生きてない、と私と彼女は思いました。子供が拾ってきた弱った動物は、きっと家族に受け入れられることはないと思いました。どこかに置かれて、寒さに耐え切れないだろう、と。ご近所さんは残念そうに帰っていきました。ふと、以前となりに住んでいた子が、近くの子と一緒に通っている、という話を思い出し、電話帳で調べて電話をかけてみました。ビンゴ!電話口に出たお父さんが、子供が鳥を持って帰ってきたと言います。おばあさまが毛布をだしてくれて、暖を取っていたと言う事。ご近所で世話をしてもいいという人がいたことを伝えました。夜、ご近所さんから電話が来て、男の子とおばあさまが、やはり鳥の世話をして欲しいと来たそうです。しかし、鳥は間もなく死んだとの事。注射器で水を飲ませようとしたら口から血が出てきて、口を開けてみたら舌が切れていたそう。これでは飲むことも食べることも出来ません。いま考えれば、店の前にいた時もまるで置物のようにじっと動かず、人が触っても逃げる様子もなく、もう弱っていたのですね。皆に心配してもらって、わずか2~3時間ほどでも皆に手をかけてもらって、鳥も幸せだったのではないでしょうか。ご近所さんが葬ってあげたというので、私も道端の菊やコスモス、「はこべ」を摘んで供えました。