1年は、なぜ年々速くなるのか(感想)
今年もあっという間に1年が経ってしまいました。 30代から50代という働き盛りの人でも、1年が速くなったと感じる人がいる一方で、70代でも、まったく1年が速くなったと感じない人もいるようです。 ”1年は、なぜ年々速くなるのか ”(2008年11月 青春出版社刊 竹内 薫著)を読みました。 脳科学、心理学、生物学、哲学などの最新エッセンスから現代人の時間感覚を解明しようとしています。 体内時計が変化するのでしょうか、忙しい現代人特有の感覚でしゅおうか。 竹内 薫さんは、1960年東京生まれ、東京大学理学部物理学科卒業、マギル大学大学院博士課程修了PH.D。 難解に見える科学のエッセンスを一般向けにわかりやすく、おもしろく解説する筆力に定評があります。 スケーリング仮説は、時計の振り子のように体内時計の時の刻みも身体の大きさに比例するといいます。 子供の1年は決して速くありません。 長ずるにしたがい、体内時計は周囲と同じベースになってしまいます。 それまでたっぷりあったはずの時間はどこかに消えてしまい、人の1年は子供のころと違って速く終わるようになります。 ペッベル仮説は、若者の今は3秒くらいだが歳をとるとともに今は間延びして5秒くらいになるといいます。 働き盛りの人々の中で、年老いてゆく自分は周囲がクイックモーションの世界に感じられ、あっという間に1年が過ぎてゆくように感じられるにちがいありません。 右脳優位仮説は、歳とともに左脳の時計係がサボり始めるといいます。 次第に細かい作業が辛くなり、計算速度が遅くなり言語能力も衰えます。 左脳の支配力が落ちた結果、右脳の機能が表面化し時間に追われて生きることが馬鹿らしくなってきます。 しかし、現状では、脳科学者の見解にしたがい、右脳優位仮説は保留ということにしたいと言われます。 加齢効率低下仮説は、歳のせいで身体と頭が効率よく働かなくなり、達成率が落ちるといいます。 確かに、周囲との比較に気を取られていると、歳とともに仕事の効率が落ちるように見えます。 だが、それには、若者の仕事をすれば、という条件がつくことを忘れてはなりません。 周囲の若者との比較という条件のもとでは否定できないように思えます。 『魔の山』仮説は、記憶に残るような出来事が減り毎日が記憶に残らない単調な繰り返しになるといいます。 トーマス・マンの『魔の山』には次のような一節があるそうです。「どう考えてみても不思議なのは、知らない土地へやってきた当初は時間が長く感じられるということだ。というのは・・何もぼくが退屈しているというんじゃなくてね、逆に、ぼくはまるで王様のように愉快にやっている、といってもいいくらいなんだ。けれども、振返ってみると、つまり回顧的にいえばだね、ぼくはもうここの上に、どのくらいかよくわからないほど長い間いるような気がする。(高橋義孝訳)」 そこで、歳のせいで身体と頭が効率よく働かなくなり達成率が落ちるという加齢効率低下仮説を『魔の山』仮説と呼びます。 後で振り返ったときに、一年がカラッポであっという間に流れていってしまったのか、それとも、充実した出来事に彩られ記憶に鮮明に残っていてたっぷりと堪能できたのかは、周囲の人がスローモーションかクイックモーションかにかかわらず、自分自身の心の問題です。 1年が年々速くなる理由の一部は、たしかに歳のせいかなという気がします。 でも、加齢による効率低下に関しては、周囲の若者と同じ土俵で勝負を続けているからそう感じるので、若者にはできない年の功の能力を生かすことができれば、一年が速く過ぎ去ることはないはずです。 要は、自分の時間を取り戻すことが大切だそうです。第1章 子供と大人で時間感覚が違うのはなぜか?-物理学からのアプローチ第2章 体内時計は、身体のどこにある?-生物学的時間からのアプローチ第3章 実感から立てた「5つの仮説」を考える第4章 一年は、なぜ年々速くなるのか