シチリアの奇跡 マフィアからエシカルへ(感想)
シチリア島は、イタリア半島の西南の地中海に位置し州都をパレルモとする、イタリア領の地中海最大の島です。 ”シチリアの奇跡 マフィアからエシカルへ”(2022年12月 新潮社刊 島村 菜津著)を読みました。 かつてマフィアの島と言われいまもその面影が残っている中で、オーガニックとエシカル消費の最先端へと向かっているシチリアを、10年以上現地取材し伝えようとしています。 シチリアは周辺の島を含めてシチリア自治州を構成しており、イタリアに5つある特別自治州のひとつです。 紀元前にはギリシア人植民者とカルタゴが争い、後のポエニ戦争でローマの支配下に入り、6世紀にはユスティニアヌス大帝の東ローマ帝国に属しました。 9世紀後半にはイスラムが掌握し、中心拠点となったパレルモは3000人ほどの町から30万人を超える都市に急成長し、イスラムの中心都市として繁栄しました。 11世紀に北欧のノルマン人が征服し、ムスリムとも共存して多文化が融合したシチリア王国として繁栄しました。 その後、フランスのアンジュー家、アラゴン、スペインなどに次々に支配され、1861年にイタリア王国の一部となりました。 マフィアはイタリアのシチリア島を起源とする組織犯罪集団で、19世紀から恐喝や暴力により勢力を拡大した、1992年ごろファミリーと呼ばれる186のグループがあり、約4,000人の構成員がいました。 一部は19世紀末より20世紀初頭にアメリカ合衆国に移民し、ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルス、サンフランシスコなど大都市部を中心に勢力を拡大しました。 1992年ごろアメリカ全土に27ファミリー・2,000人の構成員がいて、ニューヨークを拠点とするものとシカゴを拠点とするものがありました。 島村菜津さんは1963年長崎生まれ福岡育ち、福岡高等学校、東京藝術大学美術学部芸術学科を卒業しました。 大学在学中はイタリア美術史を専攻し、卒業後にイタリアに留学し、以後、現地での数年間にわたる取材をもとにしたノンフィクションなどを発表しています。 ”スローフードな人生!-イタリアの食卓から始まる”を刊行し、日本で当時ほとんど知られていなかったスローフードを紹介し、日本におけるスローフード運動の先駆けとなりました。 マフィアの起源は、中世シチリアの農地管理人で、農地を守るため武装し、農民を搾取しつつ、大地主ら政治的支配者と密接な関係を結びました。 1860年に統一イタリア王国にシチリア島が統合されたことが、歴史の変換点となりました。 イタリア王国は現在のイタリア共和国の前身となる王国で、イタリア統一運動の流れの中で1861年に成立し、1946年に共和制へ移行しました。 激動の世紀にあって、国民化、民主化を急がせる中央政府に反発は強まり、大地主や宗教勢力の他にも、勃興する労働運動、さらにファシストによる混迷が生まれました。 ここにマフィアの躍進する素地ができて、マフィアは主に労働運動などを扇動し、デモなどを通じて会社や政治への関係を強めました。 マフィアの一部はイタリア人のアメリカ大陸への移民が増えるにつれて、アメリカ大陸においても同様の犯罪結社を作り定着しました。 1920年代から1930年代にかけてベニート・ムッソリーニ率いるファシスト政権によって徹底的に弾圧されたマフィアは、壊滅的な打撃を受けました。 一旦衰退したマフィアは、第二次世界大戦中にドイツのスパイ工作に対抗するアンダーワールド作戦や、第二次世界大戦への1941年のアメリカ参戦により転機が訪れました。 波止場はマフィア組織の支配下となっていたので、東西海岸一帯の埠頭や繁華街での日本やドイツ、イタリアの諜報活動に対するため、アメリカ海軍はマフィア組織との協力が必要でした。 マフィアのラッキー・ルチアーノはアメリカ海軍に協力し、特に東海岸やメキシコ湾一帯の波止場でのスパイ監視活動やシチリア上陸作戦の情報提供を指示しました。 マイヤー・ランスキーらを刑務所に呼び、波止場における自分たちの支配力を行使するよう命じました。 1943年に連合軍がイタリアのシチリア上陸を計画した際に、チャールズ・ハッフェンデン海軍少佐は、刑務所にいるラッキー・ルチアーノに協力を要請しました。 1957年11月14日に幹部がニューヨーク州アパラチンに集合した際、FBIによる大量検挙で初めてマフィアは世に知られる存在となりました。 マフィアは、封建制から資本主義への移行と、イタリア統一期の混乱の中で生まれたといいます。 労働者を管理し抑えつける必要から生まれ、第二次大戦後の闇市や都市開発、さらには冷戦体制がこれを成長させました。 マフィアは資本主義国家とともに産み落とされ、政界や財界、司法の腐敗とともに、これに寄生しながら成長してきました。 2020年に突如襲った新型コロナウイルスの流行で、観光産業の被害の深刻さが浮き彫りになるとともに、この国らしい創意工夫が見られました。 環境、移民、貧困、さまざまな問題に取り組む団体が手を組んで、貧しい地区や移民の子たちが悪い組織にリクルートされないように、力を合わせようとしました。 そして、2022年春にロシアによるウクライナ侵攻が起き、紛争地帯からの不法な難民 や移民が押し寄せました。 その輸送はマフィアの中心的ビジネスであり、そこには武器の密売、国際的な資金洗浄がセットになっていました。 法務大臣は、大がかりなウクライナ難民の受け入れをめぐり、パンデミックの時期を教訓として、公的資金を狙った詐欺の横行や人身売買への警戒を強く呼びかけました。 パンデミックが落ち着いた後、私たちにとって、旅というものが以前よりずっと貴重なものになることは必至です。 マフィアの島が、今やオーガニックとエシカル消費の最先端へ向かっています。 みかじめ料不払い運動に反マフィア観光ツアー、有名ピザ屋が恐喝者を取り押さえ、押収された土地は、人気の有機ワイン農場に姿を変えました。 自然や芸術、おいしいものを満喫するだけではなく、旅をする地域も豊かにするようなエシカルな旅が人々を惹きつけていくことでしょう。 民主国家の重たい歩みにマフィアが寄生しているのならば、シチリアで今、始まった挑戦は、真の民主主義を実現していくための草の根運動だと言えるといいます。 次の世代のために故郷の島を変えていくことを諦めない人々のしなやかな闘いで、これから新しいシチリア人像が見られることになるでしょう。プロローグ 自由という名の男/第1章 町の負のイメージをいかに覆すか/第2章 マフィアは情報と戯れる/第3章 故郷のために命をかけた二人の判事/第4章 さよなら、みかじめ料運動/第5章 恐怖のマフィア博物館/第6章 押収地をオーガニックの畑に/第7章 食品偽装と震災復興/第8章 もう、そんな時代じゃない/エピローグ 民主主義とエシカル消費[http://lifestyle.blogmura.com/comfortlife/ranking.html" target="_blank にほんブログ村 心地よい暮らし]シチリアの奇跡 マフィアからエシカルへ (新潮新書) [ 島村 菜津 ]中世シチリア王国の研究 異文化が交差する地中海世界 [ 高山博 ]