思い出の上手なしまい方
会社の同期の結婚式だった。今年になって私が招待された同級生の挙式は2組目で、他もできちゃった結婚(式未定)と、間もなく入籍の子がいるから、4人!どうでしょ、このラッシュぶり。三十路もなかばとは思えない。しかも、まもうじきまとまりそうなのがまだまだひかえてる。むしろ、このぐらいの歳になって、自分の人生の方向性とか、価値観があるていどみえてきて、お互いの生き方を理解し尊重し合える人と結ばれるっていうのが、最も幸せなのかもしれない。結婚してみて、「こんなはずじゃなかった」っていうのは、かなり少ないだろうし。もちろん、若いうちに結婚するのもいいことはたくさんあると思うけど。ほんと、「適齢期」って、なくなったなー。自分でしたいとき、したい相手と、が一番よね。白いドレスに身をつつんで、ますます美しい彼女。おてんばチャキチャキなんだけど、年上の優しそうなダーリンといて、とてもゆったりと微笑んでいるのが印象的だった。お式も和やかで、お料理が美味しく、二人の人柄がしのばれるものだった。2次会は同期の男の子たちも来て、私たちの周りはさながら同期会状態に。大笑いして、にぎやかで楽しかったんだけど、私だけ、途中から、ワインを飲みすぎてせつなくなってきた。だって、思い出が多すぎるんだもの。みんな、会社の内定が決まった学生のころからの付き合い。何度も一緒に飲んで、「一番大事」とか「どんなときも。」なんかを、みんなで歌って、全国に散らばって、研修で集まったりして。みんなそれなりに仕事で実績を積んで。結婚したり、子供ができたり。入社何年目かで死にそうになってた時に、ずいぶん助けたもらったひとや、一晩語り明かしたひと、若気のいたり?で間違いそうになったひと(^^;・・・みんなは、毎日のように会社で顔をあわせているからいいけど、私は育児休業中だし、いろいろブランクがあるから、なおさらせつない感じ。グラスを手に、昔と変らない調子で軽口をたたきあいながら、私はだんだん、どんなふうに酔っていいのか、分からなくなってきた。私はいろんな感情のなかで、「懐かしい」という感情にいちばん弱いんじゃないかと思う。昔なじみとか、再会に極端に弱いし、デジャブーなんかがあると、狼狽するくらい戸惑う。初めて会ったのに懐かしい気持ちがするひと、とかも。2次会には、学生時代から知っているT君も来ていた。大学のプログラムでアメリカの大学で短期間聴講生として過ごしたことがある。そのとき一緒にいったメンバー。あのときのメンバーがなぜか偶然同じ会社に3人もいる(だれも英語を武器にしていない)。あの夏。ロサンゼルスにあった大きな大学に、世界中から学生が集まっていた。日本からは私の大学を中心に、各大学から計100人ほど。プログラムの間、みんな学生寮に滞在した。当たり前だけど、講義は英語だから、全然聞き取れなくて冷や汗をかいた。アメリカの大学は、先生も学生も気迫が全然違って、予習復習、宿題が膨大で焦った。でも、寮のダンスパーティがあったり、ウイークエンドには、バスでグランドキャニオンやラスベガスへ行ったり、楽しいことがたくさんあった。みんな若かったから、けんかしたり、悩んだり、恋が芽生えたり、アメリカに幻滅したり、いろいろあった。日ごろ学校では、苗字で呼び合っているくせに、滞在中は、アメリカ風に、ファーストネームで呼び合った。カリフォルニアの青空のもと、泣いたり笑ったり、まさにドラマみたいな日々だったのだ。私も、同じ寮にいた韓国系アメリカ人のジョンと恋に落ちてしまったっけ。彼は、ジャーナリスト志望で、ミズーリ大学に通っていて、夏だけ祖国のハングルを勉強しにきていた。後にも先にもあんなことはないっていうくらいの、情熱的な恋だった。国際結婚しそうに・・・ま、この話は、またいつか。まあ、だれしもがそんな、忘れられない物語があったに違いない。そういう、夏だった。卒業をひかえたころ、数人で集まった。あの夏が忘れられず、そこの大学に留学する人がいるらしいとか、そんな噂をしていたら、T君がこう言った。「懐かしいだけで、また行ってどうするんやろな。あの年、あの場所で、あのメンバーだったから、ああいう夏だったんや。また行ったかて、あの夏があるわけやないんやで。俺たちも、いつまでも思い出話ばっかりしてたって、しゃあないやんか、もうやめよう」――いくら懐かしがっていたって、もうあの夏は戻ってこない。ふだん、おちゃらけてばかりいるT君の意外な発言に、ちょっと驚いた。友人のひとりは、「彼の前で、夏の話、しづらくなっちゃった」と話していた。私はそのころ、ジョンのことがぜんぜん忘れられなかったけど、彼の言葉にはとても納得したのを覚えている。それなのに、おかしなもので、会うと、つい、昔話をしてしまう。結婚式の2次会で、T君は、昨年ロサンゼルスに行ったと話し、地下鉄が走ってて、とても便利になっていたよ、あの時もあったらよかったね、なんて笑った。あんなに、たくさん仲間がいたはずなのに、音信が途絶えたり、外国へ行ってしまったり、散り散りになって、思い出話をできる人が、ちょっぴりしかいなくなってしまった。いや、会うたびにその話をふってしまうのは、ほんとうは、また怒ってほしいからだったりして。「あの夏は、もうどこにもないんやで!」・・・なんてね。あー、友達の結婚式の話から、なんだか、そうとうずれてしまった。私は、つくづく、追憶には弱いのだった。