当取材班では以前にも「電波住宅」と称した、落書き張り紙だらけのカオスな民家の数々に迫ってきた。大田区東糀谷の物件、それに杉並区高円寺の物件、それぞれ家の主が何らかの変調を来して、自分の家の外装一面にまるで邪気封じのまじないでも掛けるがごとく、大量の意味不明な文章を直接外壁に書いたり張り紙を貼りつけたりしている。
今回タレコミを受けて我々は埼玉県蓮田市を訪れた。大宮からさらに宇都宮線を乗り継いだ先にある田舎町。小向美奈子の地元だったりするくらいで特徴のない街だ。
そんな蓮田市の西の外れにある上平野地区の一角に、主を失い荒れ果てたままになった一軒の「黒い家」がある。聞いた所によると地元では超有名な心霊スポットになってしまっている。こんな異様な家がデデーンと幹線道路沿いにあるし近くを通りがかっても嫌でも目に付く位置にあるので当然だろう。
2階建ての家は見るも無残な状態だ。放火されたのか知らぬが真っ黒に煤けた家は一部骨組みが見えていて剥き出しになった断熱材が一部はみ出ている。もうどう見ても人が住める家ではなくなっているが、取り壊されもせずにずっと放置されているようだ。
そして家の各所に目をやると早速、かつての家の主が書いたと思われる意味不明な文言が連なる。異常と猟鬼。それは自らの精神を鬼に蝕まれた人間の心の叫びか。
完全に窓枠が外れて家の中が丸見えになっているが、その中に生活の匂いは感じられない。一切家財道具らしきものが見当たらないのだ。
さらに玄関付近に目をやると「大株主に対する背信」という文言が。もしかしてこの家の主は株取引でもしていたのだろうか。もしそうなら恨み言とも取れる言葉だ。
続いて玄関口。同様に玄関の扉も取り払われて中身が剥き出しである。それ以上に玄関付近の落書きが酷い。
英語で「Dream of Star Rain City」などと書かれているがさっぱり意味不明である。この荒れ果てた家からはドリームもへったくれもない絶望的な空気しか漂ってこない。
もっと近付いて見たいと思うのも人情だが、敷地の入口にはこうしてバリケードが築かれており部外者の立ち入りを頑なに拒んでいる様子が伝わる。よく見たら取り外された玄関扉がこんな所に使われていた。
バリケードに使われ横向きになった玄関ドア-には「カギをチェーン付きのまま私にも戸を外せた」などの文言が並ぶ。
家が真っ黒なので放火にでも遭ったかと考えそうになるが、敷地の外のブロック塀も真っ黒に塗りつぶされているのを見ると、家の主が故意にペイントした可能性も高い。
外玄関から家の横面を見るとさらに意味不明な文言でびっしり覆いつくされた外壁が見える。
しかしそこも取引で大損をこいたのだろうか、バブル崩壊後に破綻したいくつかの銀行に対する恨み言がつらつら書かれていたのだ。山一とか拓銀とか懐かしいですね。
家の外壁に思いっきり名前が書かれてしまっている「東京相和銀行」もバブル崩壊後に破綻した銀行の一つ。どうやらこの家の主は結構な資産家で、バブル期に沢山の銀行と取引した挙句大損して頭がイカれちゃったのではなかろうかと勝手に想像する。
そして「テレビ、ラジオ、新聞、ニセ情報 一九八八年から」の文言も。今更メディアに踊らされるアホな消費者の社会構造をどうこう言うつもりもないが、この家の主もバブル経済の犠牲者の一人だったのだろうか。
「黒い家」から少し離れて敷地の奥にもう一軒、古い目の家屋が残っている。あっちが元の母屋だろうか。
母屋も同様に住民の姿はなく廃屋と化している。手前にはガラクタの山。燃やされたのだろうか赤茶色に変色している。
傍らの倉庫にもびっしりと落書きが。田舎なのでかなり敷地の広い家で一族郎党暮らしていたと思われるがみんなどこに行ってしまったのだろう。